様々なジャンルで活躍する方をゲストに迎えて、“すまい”にまつわるお話を伺うこのシリーズ。それぞれのライフスタイルの中で、「家に求めるもの」や「大切にしているもの」を深掘りしていきます。第9回目は、「事故物件住みます芸人」として東京、千葉などで7軒の事故物件に住み続けている、松原タニシさんが登場。松原さんが考える住まいとは、どんな空間なのだろうか?
人が死んだ賃貸住宅のイメージの強い「事故物件」の実態とは?
「初めての“事故物件”暮らしでは、怖いのを紛らわせるのに、スマホの美少女ゲームばかりやってましたね(笑)」。
そう振り返る松原さん。
すべての画像を見る(全5枚)事故物件というと人が死んだ賃貸住宅のイメージが強いが、松原さんによると実はそうではないらしい。
「不動産屋で『心理的瑕疵有』『告知事項有』などと表記される事故物件ですが、必ずしも人がそこで死んだわけではありません。
心理的瑕疵物件とは、例えば、隣りが暴力団の事務所や墓地といった精神的にイヤなことがある物件のこと。
ひとりでも入居があれば、事故物件ではなくなる……と思われがちですが、これはあくまでも業界ルールのようなもので、法で定められたものじゃない。
格安のイメージが強いけど、相場の半額なんてことはないし、契約の1年後にはもとの家賃に戻る物件もあったりする。
家賃が安いからと事故物件に住む人もいるけど、何年にもわたって何軒も渡り歩いているのは僕くらいでしょうね(苦笑)」
「事故物件に住み続けて分かったのは、心霊現象って、幻覚や思い込みの場合が多いということ。
僕が3軒目に住んだ事故物件は2人死んでいる部屋で、そこにいると頭痛がひどいんですが、シックハウスだと思ってる(笑)。つまり、気の持ちようです。
でも、こうした可能性をすべて排除しても、説明できないことがある……。
その瞬間がいちばん怖いですよ。『あ、ホンモノだ』と分かるときが!」
“ホンモノ”を知っている松原さんが最も怖かった「事故物件」
「ホンモノ」を体験している彼が、最も怖かったという事故物件の話がすさまじい……。
「初めて住んだ大阪の物件は、いちばんヤバかった。
暮らし始めて間もなく僕が交通事故に遭い、その直後、引っ越しを手伝ってくれた後輩芸人も事故に遭った。
それだけでは終わらず、10年前に同じマンションに住んでいた芸人が、同じ時期に事故に遭った。
知り合いが3人連続で事故に遭うなんて、偶然とは思えませんよね……」
こちらは“同居人”の人形・みゆきちゃん。
もともと所属する松竹芸能の養成所の小道具だったが、あまりの怖さに舞台で使うと客席から悲鳴が上がることもしばしばで、松原さんが引き取った。
市松人形の菊姫と、その胴体に入っていた生首の孔子。彼らも“同居人” だ。
今後も事故物件に住み続ける松原さんの理想の家とは?
なぜ実害をこうむってまで、事故物件に住み続けるのだろうか。「1軒目に1年間住んだあと、『あ、自分、死んでない』と思ったんです。
その後も事故物件でいろいろな目に遭いましたが、『命までは取られない』という安心感を得た。いろいろな事故物件に住んでみると、それぞれに個性があり、愛着も湧いてくる。
それで慣れてくると怖さよりも好奇心が上回って、別の事故物件を検証したくなった。
ネタのストックを増やすためもあるけど、フィールドワークみたいなものですね(笑)」
「普通は家にやすらぎを求めるのでしょうが、僕はとにかく何かが起きてほしいし、非日常を求めている(苦笑)。
仕事柄、大阪や東京に住む必要があるのですが、好きにできるなら全国の確実に“出る”事故物件に住みたい。
仕事で出ると評判の心霊スポットを数多く訪れましたが、肩透かしを食らうことが多くて……。
『前は出た』と言い訳されても、僕は『今、出る』『これから出る』ところを求めている。
要は、心霊スポットに住みたいんです(笑)」
撮影/スギゾー