しっとりとした風情を醸す町・鎌倉でS夫妻が入手したのは、借地ではあるものの鶴岡八幡宮に近い72坪強の敷地。ここに夫妻は、あたかも八幡宮の延長のように緑をたたえ、質感も豊かな家を建築。雨に濡れて緑がいっそう映える日に訪問しました!
庭を囲うL字型の家。LDKから視界いっぱいに緑が!
すべての画像を見る(全19枚)夫妻は建築家・彦根明さんに設計を依頼。彦根さんは鎌倉との調和を軸に、「幼児がいて共働き。猫と楽しく過ごせる家」などの要素を織り込んでプランニング。まず建物はL字型で、南東の庭を囲う構成。植栽は人気の造園家・荻野寿也さんです。
庭に広く面しているLDK。遮るものがなく、どこからも庭が眺められる大空間です。ダイニングは吹き抜けで、2層分の大開口がダイナミック!
LDKの前にはデッキが大きく張り出し、天気のいい日は室内外の一体感が楽しめます。すべてのサッシは風景によく馴染む木製を設置。
キッチンはアイランド型を選択。壁面の収納カウンターともにオリジナルで、壁面側はまるでつくりつけ家具のようです。小さな開口や勝手口からも緑がチラリ。
キッチンの脇につけた階段は、将来子どもの帰宅時にもコミュニケーションがとりやすそう。猫が壁の専用出入り口から顔を出しているのが分かりますか?
「ワタシはここよー」
客間にも最適な、離れっぽい上質仕様の和室
LDKと直角に庭を囲うのが和室。玄関部を挟み、LDK側とは離れのような心落ち着く空間です。
美しい杉板張りの竿縁天井など要注目!
和室から見た中庭。縁側の先にシダ類などの植栽が眺められ、視線の先にLD内の気配も感じられます。和室の左に見える建具は、組子細工で知られるタニハタの製品。
和室の縁側はDKと直角に交わり、行き来しやすい位置関係。
自然の原風景のような庭。黒の塀が空間を引き締める!
庭は高中低の木と下草が植えられ、季節ごと何かしら花が咲いて目を楽しませます。さらに川砂利が緩やかな曲線を描いて渓流を思わせ、岩を置いて木や草を植えることで自然の原風景を再現。広いデッキは言ってみれば貴船の川床のようなイメージです。鎌倉らしい黒の大和塀が、緑をいっそうくっきりと見せるのに効果的!
手水鉢は、ステンレスのバルブから水が1滴ずつ落ちる仕掛けです。吹き抜けの上下大開口を通じ、階段の上からも庭がダイレクトに眺めることができます。
2階はプライベートと共用のスタディスペースで構成。木の扉の内部は将来の子ども室。開ければ階下と会話がスムーズで、猫もキャットウォークづたいに移動OK!
吹き抜け沿いの廊下を活用した、家族共用のスタディスペース。スリット窓から、視線の先に八幡宮の茂みがとらえられます。
1階西側に水回りを設置。バスルームはヒバ材と十和田石を組み合わせ、さらにバスタブからは坪庭の緑が眺められ、くつろぎ指数200%!
道路側にも植栽を施し、地域とさりげなく連係
東の玄関側は、アプローチに沿って細い手すりとその手前に植栽を施しているのが特徴。「八幡宮が竹を渡して結界としているのと同じで、こちらは手すりが外部との分かれ目。植栽は町に提供している感覚です」(彦根さん)。
奥に八幡宮の森が控えるS邸。手前部分が和室で、やや離れのような印象。道路側は開口を最小限とし、さらに雨どいを軒と一体化させてスッキリとした外観を実現しました。
下の写真は木製格子とガラスを組み合わせた玄関引き戸。背の高いジュウガツザクラがこれから葉を茂らせ、玄関のさりげない目隠しになる予定。
訪問者が玄関土間を入ると、正面の組子細工の建具とその先の庭がもてなします。
内部は開放的でファミリーが暮らしやすく、外部は年月とともに樹木が成長して鎌倉の街並みに馴染んでいくS邸です。
設計/彦根建築設計事務所
撮影/中村風詩人
※情報は「住まいの設計2017年9-10月号」取材時のものです