Yさん夫妻が、妻の実家が所有していた敷地にヘアサロン兼住宅を建てたのは2015年の6月でした。妻は美容師歴20年近くで、夢はもちろん自分の店を持つことでした。「子育てしながら、ブランクなく仕事を続けさせてあげたかった」という夫の力強い応援もあって、夢を実現させました。近くに親が住み、子育ての協力を得られるのも安心だったそうです。

目次:

クルマを運転しながらでも一目で分かる外観にサロンの大きな窓からは、光とのどかな借景も入る店内はスモーキーカラーで個性をプラス自宅はカラーも趣きも変えて気持ちにメリハリを夫の書斎は外から出入りするつくりにしたことで「おこもり感」が

クルマを運転しながらでも一目で分かる外観に

ヘアサロン兼住居
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敷地は155坪あって大きな家ができそうですが、夫妻が建てたのは小ぶりな平屋一戸建てでした。設計を担当した岡山森さんは、風の抜ける通路を挟む形で、住宅と店の入り口が向かい合う建物を計画。1階、2階の上下ではなく横並列の配置なので、行き来も快適そうです。

外観はワインレッドのガルバリウムで、一見倉庫風です。
「地元は皆さん車で移動。運転しながらチラ見で“あれやー!”と、すぐ分かる存在にしたかったんです」と妻。
色は夫妻と建築家の岡山さんとで慎重に検討して決めたそうです。
田園風景の中にあって、ワインレッドのガルバリウム鋼板で包み込まれた建物はなかなか目立つ存在です。あえてヘアサロンの看板を出さず、シンプルにまとめられているところが、潔くてカッコいいですよね。

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デッキが設置されている方が自宅です。間口をフルに生かしたデッキでは長女と岡山さんの長男が猛ダッシュ!

サロンの大きな窓からは、光とのどかな借景も入る

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サロンの大開口の窓からはのどかな風景が広がり、ゲストも和めそうです。

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店舗は10畳ほどのコンパクトなスペースにしました。「完全予約制でマンツーマン対応。まずは自分ができる範囲で接客をこなしていきたい」と妻。

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店と自宅の玄関ドアは通路を挟んで斜めにずらし、あえて距離感をつくりました。サロンと自宅を区切る建物通路の床は黒っぽいレンガ敷きで、土間というより道路を思わせます。
この地域特有の強い風は通路から抜けるようになっています。

店内はスモーキーカラーで個性をプラス

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妻はややスモーキーな色合いが好みなようで、店内の壁は渋めのピンク、トイレは壁を暗めのコバルトブルーで塗装しました。

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全体として店のイメージや個性につながっていますね。また、妻がこだわったのは、クールなトグルスイッチの採用です。
オンとオフが手応えよく切り替わり、仕事に対する気持ちにもスイッチが入りそうです。

自宅はカラーも趣きも変えて気持ちにメリハリを

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自宅に入ると、玄関ホールから回り込んだ位置にLDKがあります。ドアを開けても生活の様子が直接見えない工夫が取られていました。また寝室などプライベートな空間は店側からいちばん遠い場所に置きました。
店とは違い白をベースとした内装は、ほたて漆喰の壁や無垢材が生かされナチュラルな志向が伝わってきます。
「店と自宅は同じ建物。気持ちを切り替えるために雰囲気を変えたかった」と妻。
仕事が終わり、扉を開ければホッとできる住まいが待っています。

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LDKの主役は、妻の要望と趣味を存分に生かしたキッチンです。妻と建築家の岡山輝子さんとで綿密に打ち合わせし、壁面は人気のサブウェイタイルを貼り、さらに目地の色にもこだわって仕上げた空間です。
木と鉄を組み合わせて見せる収納を意識した棚を造作で取り付けたことで、カフェ風に仕上がりました。長いカウンターはその半分をテーブル仕様にしてダイニングスペースに。あとの半分はソファと接し、リビングと一体化させています。キッチンからデッキにも目が届き、コミュニケーションの取りやすさは格別です。

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キッチンは2列配置で、カウンター下に家電などを収納しています。
「できるだけ時間にゆとりを持ちたいと、前々から憧れていた大容量の食洗機も導入できて満足。わざわざ大阪のショールームに輝子さんと足を運んでチェックしたんですよ」と妻。

夫の書斎は外から出入りするつくりにしたことで「おこもり感」が

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建物の西側に突き出た部屋は、夫の小さな書斎です。内部でつなげず外から出入りする点がユニーク。
「わざわざ行くことで、おこもり感が増して落ち着きます」と夫。

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洗面室には実験用シンクを採用。小物をたくさん置ける棚も造作しました。

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南東側にあるのは子ども室。一面に貼られた壁紙は輸入品をセレクトしました。プリントされたフレームに写真を貼ってディスプレイできる楽しみもあります。自宅兼ヘアサロンが同じ建物でありながら絶妙に分離し、仕事もプライベートも順調なYさん一家の素敵な暮らしでした。

設計/a.un建築設計事務所
撮影 日紫喜政彦
※情報は「住まいの設計2017年3-4月号」取材時のものです