今回ご紹介するのは、都内で約10坪の狭小地に念願の店舗付き住居を実現した塚本佳子さんの住まい。建坪わずか7坪とは思えない開放的な住まいの一角で、北欧の器と雑貨のショップを週末限定で開いています。
すべての画像を見る(全16枚)オープン棚を介してつながる店と暮らし
縦に長いプロポーションのファサードに呼応するように、大きな縦長の窓が開く建物。
中をのぞくと、素敵な器や雑貨がにぎやかに並んでいます。
オーナーの塚本佳子さんの本業は編集者兼ライターですが、北欧の器や雑貨、家具を集める長年の趣味が高じて、住まいの一角で週末限定のショップを開いています。
内部には通りに面して2層半を貫く大きな吹き抜けがあり、地面より少し下がった吹き抜けの底面が店舗スペースです。
面白いのが、この吹き抜けと奥のスペースを仕切る特大のオープン棚。
下段に並ぶ器は半地下のお店の商品ですが、上段に見える器は、1階奥のダイニングキッチンで塚本さんが普段使っているものなのだそう。
「北欧の器はヴィンテージものも扱っているので、自分が使っていた器を売ることもあるし、商品として仕入れたものを気に入ってしまい、自分で使うこともあります」
空間も暮らしぶりも、店と家の境目のあいまいさが緩やかな魅力を生んでいます。
北欧雑貨のある暮らしを垣間見える空間はお客さんにとっても興味深いようで、空間に興味を示す人には塚本さんが「上も見ますか?」と声をかけ、案内することもあるのだとか。
吹き抜けのおかげで住居スペースも開放的に
実は設計を依頼した当初、「のちのちお店ができる家にしたい」という程度に考えていたという塚本さん。
しかし提案されたのは、意外にも南の一等地を大きな吹き抜けのある店が占める大胆なプランでした。
設計を担当したオンデザインパートナーズの一色ヒロタカさんは、
「通常なら1階が店、2階が住居と分けがちですが、そうすると空間の使い方として閉店中の平日がもったいない。
住宅の一部をお店としてつくることで、日常使うものも店に参加できる一方、店舗スペースも平日の生活空間を豊かにする場所になるのではないかと考えました」
奥の住まいスペースに入って、その言葉に納得。
1階のダイニングキッチンや2階のリビングまで吹き抜けを通じて光が入り、開放感が増し、さらに道路と住空間の間に距離ができることで落ち着きが生まれています。
ダイニングキッチンは約7畳、2階のリビングは約6畳。
完成間際まで「狭いのでは」と心配していたというリビングには、天窓やベランダから光がふんだんに入り、白い壁の効果もあって面積以上の広がりを感じます。
図面や模型では分からなかった空間の広がりを初めて体感したときは「衝撃的でした」と笑う塚本さん。
屋根の傾斜が表れたリビングは、一段上がったロフト部分を和室にして床面積を増やしています(写真下)。
和室の床下は吹き抜けとつながっていて、開放感を損ないません。
ちなみにこの和室は塚本さんの寝室スペース。床下には、布団も入る大型収納が。
階段脇や階段下などのスペースも余すことなく収納に活用しています。
下左は廊下から見た店舗スペース。右手の腰壁上部は飾り棚としていかしています。
下右は地下1階の造作洗面台。既製品の鏡ともよく合います。
暮らし始めてみると、通りに面して店があることで、見守られているような安心感があると実感しているそう。
店が家と街をつなぐ役目も果たす、都市住宅の新しい可能性を示す住まいです。
もっと詳しく見たい方は、ぜひ「住まいの設計2017年3.4月号」も参考にしてみてくださいね。
設計/オンデザインパートナーズ
撮影 桑田瑞穂
※情報は「住まいの設計2017年3-4月号」取材時のものです