老いていく親と介護費用というのは、だれにでも共通する問題です。親の介護が必要になる前から、いざという時のお金をどうするのか、家族の間で話し合いはできているでしょうか。
「認知症で財産が凍結されないような生前対策のひとつとして“家族信託”が有効です」と語るのは、相続問題に詳しい虎ノ門法律経済事務所の弁護士・福原玲央先生。契約書作成から信託口座開設までのポイントも詳しく解説してもらいました。
お金の管理が難しくなっている父親。家族信託ってどんな仕組み?成年後見人制度との違いは?
実際に父親と家族信託をした私自身の例をご紹介します。
家族信託は2007年に施行された比較的新しい制度で、メディアなどでその言葉を耳にした人は多いかと思います。
私の父は地方で一人暮らしをしていたのですが、持病の糖尿病が悪化して救急搬送されたときに、様々な金銭問題が発覚しました。
●家族信託を使おうと思ったきっかけは、親の金銭感覚への不安だった
すべての画像を見る(全4枚)当時60代とまだ認知症を疑うには早いくらいのタイミングでしたが、入院時、すでにお金の管理が難しくなっていることがわかりました。
マルチ商法にひっかかって自宅に大量の商材があったり、身の丈に合わない保険契約をしていたり、入院先の病院には友人と名乗る人が高額な報酬が出るおいしい話があると押しかけてくる始末…。
認知症ではないので、本人の意思で交わした契約は有効、という恐ろしい状況でした。すぐになんとかせねば! と家族で対応策を模索したときに知ったのが家族信託です。
●信頼できる身内に財産管理を託せられる家族信託。メリットは?
父自身、薄々怪しいとは思っていても、孤独な一人暮らしのなかで親しく言い寄ってくる人と仲よくしたいという気持ちがあったのかもしれません。入院時、私や弟に、自分の財産管理についての不安を漏らす場面もありました。
信託とは、その文字のとおり「だれかを信じて託す」ということ。そこで子どもの私たちから提案したのが家族信託でした。
【Check!:後見制度より本人や家族の意向を反映させやすい】
「判断能力が十分でない人を法的に守るために“成年後見制度”もありますが、こちらは本人や親族が希望したとしても第三者(弁護士や司法書士など)が成年後見人につく可能性があります。
任意後見という、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公正証書で結んでおくこともできますが、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督が必要であり、その任意後見監督人も弁護士や司法書士などの専門職が就任することが多いです。
また、成年後見では、実際に本人の判断能力が衰えた後に裁判所に申立てて後見開始の審判を経ないと財産の管理はできません。
家族信託では、本人の判断能力が衰えた後に受託者が財産管理を行うことができることはもちろん、本人の判断能力があるうちから、信頼できる家族などに財産管理を任せることが可能です」(福原弁護士)
私の父はなぜか後見制度に詳しかったのですが、もし自分と気が合わない人が選任されてしまっても、よほどのことがない限り途中での解任が難しい点を嫌っていました。通帳やカードも成年後見人に渡すため、子どもたちが親のためにお金が必要だと主張しても、後見人の許可がなければ預金をおろすことすらできなくなります。
ほかにも預貯金などの流動資産が高額の場合は、後見監督人がついたり、後見制度支援信託の利用をすすめられるなど、使いにくさに抵抗を感じる人は少なくありません。
一方の家族信託の場合は、信託の仕組みを利用しながら、本人や家族が希望する人が財産管理できるという点にメリットを感じました。従来の後見制度よりも柔軟に本人の希望を反映させやすいといえます。