●母親の老いにがっかりしないでほしい

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昔は若くて元気だった母親の姿を間近で見て覚えているだけに、老いた母親の姿を見ると、子ども側も悲しくなってしまう部分もあるかもしれません。でも、「人は、誰でも老いていくもの。母親が老いることを、哀れに思ったり、寂しく思ったりしなくていい」と黒川さんは続けます。

「新しい命が生まれて、古い命が場所を譲っていく。ただそれだけのことです。若いころは、私も『60過ぎても生きる意味があるの?』と思っていました。でも、60歳を過ぎてみると、意外に幸せなものです」

脳と身体は連動しているので、身体が衰えるにしたがって、脳が抱く野望も衰えていくもの。だからこそ、年齢を重ねるごとに、人の心は穏やかになれるのです。

「もしも、30歳の脳を抱えていたら、60歳の身体だとしんどいと思います。若い子のとなりで、鏡や写真に映るたびにがっかりしたり、誰かの成功にいちいちイライラしたりしていたはずです。でも、いまは、そんな野望が自然に脳から消え失せているので、若い子の美しさにただ感動して、知人の成功にも心からの祝福をして過ごせます。老域もいいものですよ」

●老齢の母親に対して親孝行するコツとは

また、仕事や家事の忙しさにとらわれて、親孝行ができていないことに後ろめたさを感じる人もいるかもしれません。でも、黒川さんは、「後ろめたさを感じなくてもいい」と語ります。

「もし、あなたが母のお望み通りの人生を生きてなくても大丈夫です。母たちの脳は、子どもを持ったことだけで、9割がた満たされています。あなたを得ただけで、母の人生に、ゆるがない価値が生まれているはず。親孝行したいなら、母が望むことは、究極のところ、ただ一つ。『いつまでも、私の息子であってほしい、私の娘であってほしい』ということです」

そのため、親孝行をするのであれば、ときにはちょっと頼って、たまに「嬉しくてたまらない笑顔」を母に投げかけることが重要なのだとか。

「こじれてしまうと母親ほど厄介な存在はないですが、コツさえ掴んでしまえば、本当に簡単。母たちの脳は、けっこうステレオタイプなんです。生きていたら厄介だけど、逝ってしまったら、ただただ心残り。それが母親という生き物です。生きているうちに、仲良くなってくださいね」

●母親に会ったとき、「笑顔」になることの重要性

母親の老いを感じて胸を痛めたり、ともに過ごすことの「うんざり」を想像して憂鬱になったり。そんな理由で、母親に向ける表情はつい憂いに満ちたものになりがち。母親に会った瞬間こそ、笑顔を見せることが肝心です。

「じつは笑顔には、思いがけない脳への影響があります。私たちの脳には、ミラーニューロンと呼ばれる脳細胞があります。この脳細胞が『ミラーニューロン(鏡の脳細胞)』と呼ばれるのは、『目の前の人の表情や所作を、鏡に映すように、自分の神経系に移しとってしまう』能力を担保しているから。そして、目の前の人の表情を、人は無意識のうちに自分に移しとります。つまり、満面の笑顔を向けられれば、人は誰しもつい笑顔になってしまうのです」

さらにに加えて、表情にはもう一つの秘密があるのだとか。

「表情は出力ですが、入力にもなります。人は嬉しいから嬉しげな表情をしますが、嬉しい表情を移しとると、嬉しいときに脳に起こる神経信号が誘発されます。つまり、嬉し気な笑顔をもらった人は、嬉しくなるんですね。いつも嬉し気な表情をしている人は、周囲の人を笑顔にし、それがまた自分に跳ね返ってきて、永遠に嬉しい気持ちでいられます。逆に言えば、憂鬱な顔をもらった人は憂鬱になるし、イライラ顔をもらった人はイライラしてしまう。自分の表情は、周囲を変えてしまうものなんです」

老いた母親と接するときに感じるイライラは、じつは自分が発信したイライラが反映されている可能性も。自分の振る舞いや表情を一つ変えるだけで、母子関係はぐっと改善されるかもしれません。

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