旬の素材を使った毎日の料理や、時季ならではのおいしい食べ方をつぶやくツイッターアカウント、「きょうの140字ごはん」(
@140words_recipe)を運営する文筆家の寿木(すずき)けいさん。
使いたいと思う食材や道具、そしてだれかへの贈り物は、四季に導かれるものだそう。
寿木さんから季節のあいさつに代えて、読者の皆さんへ「今日はこれを手に取ってみませんか?」とお誘いします。
お子さんが小さいころに導入したキッチンバサミは、ときには包丁とまな板よりも万能な存在に。
今回は、そんなハサミに助けられる一年のことを教えてもらいました。
台所でも、アウトドアでも。料理に欠かせないキッチンバサミ
まな板1枚置くのも、包丁1本取り出すのも、億劫なことがある。
朝ごはんはすでに相当な手抜きを導入していて、前の晩にみそ汁用の野菜を刻んで密閉容器に入れ、あとは卵を割ればたいてい食卓が整う。
●ハサミに助けられた子育て
子どもが小さい頃からよく外食に連れて行っていた私は、キッチンバサミを持参するのを忘れないようにしていた。大きめの食材が出てきたときに、小さく切って分けてやると、子どもでも簡単に安全に食べることができるからだ。
すべての画像を見る(全7枚)いくつか使ってみていちばんしっくりきたのは「貝印」のハサミだった。
持ち手が安定していて、刃の長さもじゅうぶんあり、先端を使えば細かい部分も狂いなく切れるし、肉など厚みのある食材は刃全体を使えばちゃんと切れる。先端にいくにつれてカーブがついているのも、食材に添わせて使うことができ便利だ。
●アウトドアでも大活躍
子どもが小さいときに、その使いやすさで味をしめたハサミ。以来、私の料理に欠かせない道具になった。
たとえばある春の日、自宅でバーベキューをしたときのこと。
新鮮なタケノコをホイルに包み、炭の中に1時間ほど放っておいた。熱々のところを軍手で持ち、ホイルをはがしたあとは、ハサミの出番。長くてカーブした刃をいかしてタケノコをまっぷたつに割けば、湯気をもくもくと上げふっくら焼きあがった実が現れた。
パプリカやレンコンなどの野菜も同じようにホイルに包み、炭の中へ放り込んでおく。肉が焼けるタイミングに合わせて取り出し、あとはハサミを持ってお皿の上でひょいひょいと切っていくだけ。手も汚れず、洗い物も少なくてすむ。
もちろん肉だって得意だ。小さくも、細く長くも、ごろっとした塊ふうにも、参加メンバーの胃袋に合わせていかようにも切れる。
●夏に重宝したのは、枝豆の斜め切り
枝つきの枝豆を見つけると買わずにはいられない。
この夏、おやつに、酒の肴にと何度も食べた枝豆は、ゆでる直前に豆の先端を斜めにカットしてから、塩を加えた湯でゆでる。以前居酒屋の店主に習ったテクニック。
このときに重宝するのが、繊細な調整が可能な刃先だ。
●寒い季節の“ながら”料理にも
秋冬は時間をかけて煮込む料理をつくる機会が増える。たくさん使う昆布を活用したくて、一番だしのあとの昆布を冷凍してある。
量がたまってきたら、ちょっとあいた時間にキッチンにスマホを持ち込んで、Netflixを観ながらハサミで昆布をちゃっちゃと正方形に切ってしまう。しょうゆとみりんで甘辛く煮れば、ドラマを観終わる頃にはつくだ煮ができている。
ぬめりのある昆布は、包丁ではなかなかこうはエッジを立てて刻みにくい。
道具というのは本当に不思議な作用があって、気に入ったハサミがあると、スーパーに並んでいる食材をハサミで「切れるもの」と「切れないもの」という対立軸で眺めるようになる。
切れるものが案外多いことにも気がつき、それが新しいレシピのアイディアを生むこともある。
調理時間を短縮する便利な家電もたくさんあるけれど、食欲の秋、まずは身近な「切る」道具を新調してみると、料理が少しおもしろくなるのではないだろうか。
【寿木けい(すずきけい)】
富山県出身。文筆家、家庭料理人。著書に『
いつものごはんは、きほんの10品あればいい』(小学館刊)など。最新刊は、初めての書き下ろし随筆集『閨と厨』(CCCメディアハウス刊)。趣味は読書。好物はカキとマティーニ。 ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe) ウェブサイト:keisuzuki.info