ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている

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。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第24回は、3か月ぶりに帰宅した妹と犬の再会について。

花火にプール遊び。夏休みを凝縮したような、つかの間の家族団らん

「ほな、犬ちゃんまたね」
手を振りながら改札をくぐっていった妹を犬と見送ったのが3月中旬。
妹から「犬に会いたい、帰りたい」とラインが届いたのが5月下旬。
実際に帰ってきたのが6月下旬、先日およそ3か月ぶりに妹が帰省した。

3か月間も会わないなんて最近だとあまりなかったので犬は妹を忘れてしまっていないだろうか。本回覧板でも書いたが、私の言葉で犬が反応する単語は3つある。“散歩”そして“おやつ”この2つはどんなに小声で呟こうが、カッ! と目を見開いて痛いほどの視線を向けてくる。
犬のライフサイクルにおいて大切な散歩とおやつに並び、反応するのが妹の名前だった。

しかし最近は妹の話題を投げかけてみるも、
「犬~、妹が犬に会いたいってさ」
「…」
「妹はお昼ごはんなに食べたかな」
いっこうに犬の鼻先はこちらを向かないし、知らないとでも言いたげな後頭部だ。
あーあ、妹よ。忘れられたかもしれへんわ。帰ってきたら他人のように吠えられてまうかも。

虹
6月10日 雨上がりの虹
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妹が帰ってくる日の昼下がりは初夏のように暑く、プール開きをすべく汗だくになりながら、組み立てたプールに水が貯まるのを犬と眺めていた。
犬のとなりに腰かけて、八割くらい夏毛に生え変わった毛並みをなでながら「今夜、妹が帰ってくるよ」と話しかけた。それを「くるよ」と言い終わるのを待たず、待ちきれなかったとでもいうように、ぐるり! と丸い瞳と黒い鼻先がこちらに向いて、耳はぴーん! と立っていた。

前と違う反応に面食らった。帰ってくる事実が欲しかったのか、先の雑談と今の報告とでは私の伝える温度感に違いがあったのか。まあお昼ごはんについて聞かれても、私かて知らんがなってなるわ。

妹よ、そして犬も、忘れたなんて思い違いをしてしまってごめんなさい。なんて詫びながら、胸の奥からじわりと滲んでいくのは安堵感。新しいプールを犬はさっそく気に入って、自分の縄張りだ! と主張した。

プール

夜、迎えに行ってくれた両親と妹の帰宅を待ちわびていた。私には聞こえない音まで拾う犬の耳は父の車のエンジン音が聞こえたのか、ダダダダ! と玄関先まで走っていった。

それから近づいてくる足音に合わせてしっぽはゆらゆら揺れて、表情からは期待が伝わってくる。扉が開くのを今か今かと待っている。

「ただいま!! 犬ちゃんー!!!!」

マスクをつけていても満面の笑みだとはっきりとわかる、相も変わらずにぎやかな妹のお帰りである。犬はきらきらと瞳を輝かせて、上体をかがめながらしっぽを左右にブンブンと振っている。そしてうちに入ってくる妹の足につかまるように立ち上がると、「ちょっと待ってね」と急いで手洗いとうがいをして、再会の儀式となった。

妹の目元に鼻を寄せてすんすんすんすん

妹の目元に鼻を寄せてすんすんすんすん…とにおいを嗅ぎながら、まっすぐな眼差しを向けて、なでられる両手を甘受し、五感すべてで迎えていた。よく帰ってきたね。おかえり。

手持ち花火

妹がはるばる手持ち花火を持って帰ってきたので、犬の安全に注意しながら庭で花火をした。犬は火を怖がるイメージがあるかもしれないが、初めて見た手持ち花火を興味津々で眺めていた。怖がらないからこそ触ったりしないように気をつけて、夏夜の遊びに興じていた。

花火

妹は火が消えた花火を持ちながら動こうとしなかった。「火ぃ終わっとるで」と言えば「あ、花火見やんと犬見てた」と笑うので、渾身の「ヒュー!」が出た。

犬をなでている様子
振り返る犬

花火のあとは家の裏手に流れる川で蛍を眺めて、翌朝は祖母の家に行って、お昼ごはんはうちで夏野菜をたらふく食べて、2日連続プール遊びをした。

プールめがけて突進
プールめがけて突進してくる
プールに向かう犬

プールに水をまく妹にくっついて放水に噛みつこうとしたり、水中ボール遊びをしたり、ただ水に浸かっているだけでも気持ちよさそうに目を細める。

ホースから水をのむ
プールに入る犬
プールで遊ぶ犬

放っておくといつまでも入っていそうなくらいだから、熱中症にならないように休憩を取らさねばならない。人と同じだ。

プールから出た犬

ひとしきり遊んだら昼寝をして、夕方ごろ妹はキャリーケースをひいて家をあとにした。「ほなまた」とフラットな去り際を犬と見送った。丸1日にも満たない帰省だったがどんなに有意義な時間だったか、見送った帰り道の犬の横顔が物語っていた。

助手席に犬

40日間の夏休みをぎゅっとつめ込んだかのような時間だった。

横たわる犬
眠る犬

この連載が本

『inubot回覧板』

(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。

【写真・文/北田瑞絵】

1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント

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