ちょっと親しみのある言葉になってきた「SDGs」。家づくりに取り入れるためには、どうすればいいのでしょうか?住宅業界でも、環境に配慮した建材・設備やエネルギーを自給自足できる家など、新しい動きが多く見られます。最近は新築にこだわらず、古い家を自分らしくリノベーションして住む人も増えました。 こうした動きを踏まえながら、「SDGsな家」とはどんなものなのかについて、SDGsに詳しい時事YouTuberのたかまつななさんが、建築家の川島範久さんに話を聞きました。

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にわかに注目されるSDGsの現状

全国の小中学校でSDGsの啓蒙活動に取り組んでいるたかまつさん。若い世代の意識が、少しずつ変わってきていることを実感しているそう。

たかまつ:今年に入ってから、SDGsという言葉を目にすることが増えました。小学校では昨年度から学習指導要領に入り教科書にも載っていますし、学生のあいだでは急速に浸透しています。

メディアでも、かつては一部の新聞が取り上げるくらいだったのが、このところテレビでもSDGsの特集を目にする機会が本当に増えました。こうした動きは、「家づくり」にも波及しているのでしょうか?

川島:個人の建主の意識は、まだそこまでは進んでいないと感じています。ただ、企業は変わってきたと思いますね。

オフィスの話になりますが、以前は環境配慮型の技術、たとえば自然換気のために窓を開けられるようにすることさえ、省エネ性をコスト換算するなどして費用対効果を示さない限り、理解を得ることが難しかった。どうしても「安くつくりたい」となりますから。

それが、東日本大震災を経て、災害時のBCP(事業継続計画)のためであれば受け入れられるようになり、コロナでようやく自然換気が当たり前に受け入れられるようになりました。また、近年の異常気象は誰もが肌で感じているので、環境配慮やSDGsの話が出ると「確かにそうですよね」と。そういうポジティブな反応が得られるところまではきていると思います。

 

建物の形状や配置の工夫で「省エネ」を実現

たかまつ:実際にSDGsに配慮した家にするとなると、どのあたりがポイントになるのでしょうか?

川島:「環境負荷の少ない家」という意味では、できるだけ木材や土などの自然素材、もしくは人工素材をアップサイクル(価値を高めて再利用すること)した素材を使うことでしょう。これは、建設段階での負荷を減らすことにつながります。

また、生活の中で使用するエネルギー、つまり運用段階の負荷を減らすことも重要です。そのためには太陽や風など自然のエネルギーを最大限活用できる建て方をすることが大切に。

つまり、冬には日射を取り込むことができ、夏には日射をさえぎることができて、風もしっかり抜けていくような建物形状と配置にすることですね。それによって、設備を使わなくても自然のエネルギーだけで暮らせる時間をできる限り長くするわけです。さらに、エネルギーだけでなく水の使用量を減らすために、たとえば雨水を集めて利用しやすい屋根の形状にするなどの工夫も可能です。

たかまつ:それを実現するには、それなりの建設コストがかかるんですよね?

川島:建物の形状や配置についてはアイデアの部分なので、それをやるからコストがかかるわけではありません。ただ、建材に関しては、FSC認証(森林認証制度)を取っている木材やリサイクル建材など商品化されたものを採用すると、高くなってしまいます。

たかまつ:200円のフェアトレードのチョコレートを買いましょうというのとは金額が違いますから、いくら環境によくても、手放しでそちらを選ぶのはなかなか難しいですね。

川島:実際、個人の建主の場合はそこがネックになっているというのが実情です。

 

住まいの構造を「見える化」すれば、消費者の意識は変わる

川島さんが手がけた「SDGs博士の家」。冬の日射を南面から取り込み、夏には風が抜け、屋根は雨水を集めやすい形状。「コストをかけるところはかけて不要なものは取り払う」(川島さん)。

 

たかまつ:ただ、「安いものには理由がある」ということが、現状ではあまり消費者に伝わっていないと思います。

安い素材の背後では、だれかが不当な賃金で働いているかもしれないし、環境破壊が行われているかもしれない。そうした情報が明らかになっていれば、それを消費者は選択しないということもありえるでしょう。「なぜこれが安いのか」という、モノがつくられるまでの過程が見えなさすぎるのではないでしょうか。

川島:おっしゃるとおりです。その意味では、建築もブラックボックス化されているといえると思います。

建築は、たくさんの部材の集合体であり、すべてを把握することは難しいですし、単純に、壁の中や床下や天井裏に隠れて見えない部分が多いです。住み手は、目に見えるフローリングや壁紙は気にするかもしれませんが、その下がどうなっているかは、あまり気にしないですよね。

そんな中で、私たち建築家にできる工夫のひとつは、建物を構成している部材をできるだけ見えるようにデザインすること。それが、結果的に住み手の意識の変化につながるのではないかと考えています。

たかまつ:消費者の意識を高めるのと同時に、社会の中で環境に配慮した家が「気軽に選択できるもの」であることも重要ですよね。結局、SDGsを気にしたほうがお得だったり、安くすんだりするのであれば、SDGs的な世界だって、あっという間に広まるわけですから。

川島:その意味では、導入するには慎重な議論が必要ですが、やはり「法規制」には強い力がありますよね。

たとえば、断熱性に優れる樹脂サッシなどの高性能窓はSDGsの達成に向けて重要なものですが、日本ではまだ高価です。一方、ドイツでは一定以上の性能を持った窓サッシを使うことが義務化されているので、近所のホームセンターで気軽に買えるくらいに普及しています。

 

構成をシンプルにすれば低コストとの両立は可能

川島さんが進めている「豊田の立体最小限住宅」。シンプルな構造にし、内装を構造材表しにすることで、コストを抑えながら高性能な住宅を実現。

 

たかまつ:とはいえ、今のところはやはりコストがネックなのですね。

川島:ただ、建物や壁の構成をシンプルにし、部材量を減らせば、コストはぐっと抑えられるんですよ。

たかまつ:その場合は、なにをあきらめなくてはならないんですか?

川島:私が今、手掛けているのは「仕上げない家」(写真上2つ)です。内装の仕上げや外装材を、とことんシンプルにするイメージですね。

壁に石を張りたいとか、ここはタイルにしたいといったこだわりが多い人にとっては、物たりなく感じるかもしれません。しかし、こうした既存の「夢のマイホーム」のイメージにとらわれていると、既存の商品の集積で住宅をつくるしかないので、高くなる一方なんです。

たかまつ:「仕上げない家」というのは、面倒くさがりな人は選ぶ手間が省けるし、それでコストが下がって環境にもいいのであれば文句なしですよね。ただ、それで「真冬に極寒でしのいでください」と言われたら困りますが…。

川島:そこはあきらめないんです。今建設中の家は、耐震等級3をクリアしていますし、断熱性能も高水準です。一方、内部の仕上げというものがほとんどなく、構造用の合板や柱が全部露出している状態です。

たかまつ:気持ちのいい空間ですね。

川島:別の家では、南向きの壁を全面窓にして、自然の光の変化を楽しめるように設計しています(写真下2つ)。

たかまつ:全面を窓にすると、外の気温の影響を受けたりはしないんですか?

川島:しっかり軒を出して夏の日射はさえぎるようにしており、窓は高断熱サッシにLow-Eペアガラスという高性能ガラスを使っているので、室温はすごく安定しています。冬は20℃以上、夏は外が40℃近くになっても28℃ぐらいをキープしていますね。ちなみに、紹介した2軒(「仕上げない家」と「一宮のノコギリ屋根」)は、いずれも延床面積約100㎡で建築費は2000万円台前半と、一般的な注文住宅と比較してもリーズナブルになっています。

 

対談中にも話題になった「一宮のノコギリ屋根」。

 

南向きの採光面から、たっぷり日射を取り込む設計。窓にはアルミ樹脂複合サッシにLow-Eペアガラスを使用。

 

継続的なデータ収集で環境配慮の知見をシェア

たかまつ:今おっしゃったような室温の変化などは、建てたあとも住んでいる方と継続してコミュニケーションを取って調べられているんですか?

川島:そうです。環境センサーを置いて1年間測ってみて、こういう工夫をするともっと快適に過ごせますよとか、省エネになりますよといったアドバイスも差し上げています。

たかまつ:すごい。それもちゃんとデータとして蓄積されていくわけですよね。

川島:もちろんです。今まで建てっぱなしにしたことはないですね。実測によって、想定した性能が出ている部分と出ていない部分はクリアにしています。

たかまつ:そうした川島さんの知見は、ほかの建築家の方とも共有されているのですか?

川島:私は大学の教員でもあるので、データは論文として発表しています。また、建築の専門誌などで建物の仕様や図面などもオープンにしています。

たかまつ:なるほど。そうやって、少しずつムーブメントとして広がっているのですね。今日はありがとうございました。

※情報は「住まいの設計2021年10月号」取材時のものです

 

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