80歳の留学生との出会い。「今がいちばん楽しいの」

スペインの授業の様子
すべての画像を見る(全9枚)

ある日、留学生仲間として知り合った北欧の女性。なんと、80歳でスペインに短期留学中でした。

「今がいちばん楽しいのよ。だって、自分のために生きられるから!」

そのひと言に、私は心を打たれました。

80歳という年齢で、新しい国へ飛び込み、言葉を学び、人と出会い、街を歩く。「今さら」ではなく、「今こそ」の姿勢が、とにかくかっこよかったのです。

人生のどこかで「自分の番」をちゃんと迎えている人は、年齢を重ねても軽やか。私はそんな「キラキラして見える80代」を知り、今までの「年齢を重ねることはマイナスなこと」という思い込みが消え、年齢を重ねることが楽しみでさえあります。

なにかに挑戦しているとき、人は素直になれる

スペインの街なか

また別の日。スペイン語初心者のアメリカ人男性が、奥様と一緒に語学学校へ来ていました。緊張した面もちで先生に話す主人の姿を見ながら、奥様がぽつりと言いました。

「彼はいつもは怖いけど、スペイン語を話すときだけ、ゆっくりで優しくなるのよ」

その言葉がなんだかかわいらしくて、じんわりと心が温かくなりました。

自分がなにかに挑戦しているときって、人は無防備で、素直になれる。そしてその姿を見守るだれかとの関係も、少しやわらかくなる。“自分を楽しんでいる姿”が、まわりへの優しさにつながる。

スペインでは、そんな瞬間によく出合います。

50代は「大事なこと」を選び直せるタイミング

スペインの広場

50代になり、体力も衰えてきて、昔のように「なんでもがんばる」は通用しなくなってきました。でもそれは、「自分にとって本当に大事なこと」を選び直せるタイミングなのかもしれません。

スペインで暮らす大人たちを見ていると、人生の後半こそ“私を楽しむ時間”にしている人が多いと感じます。

趣味に没頭したり、毎週ジムに通ったり、週末は家族とごはんに出かけたり。

仕事も大事だけど、自分の時間をおろそかにしない大人たちの姿に、心が整っていくような感覚を覚えました。

自分を優先することは、わがままじゃない

スペインの昼下がり

昔の私は、「自分を優先するなんて申し訳ない」と思っていました。けれど、今は思います。

自分を満たすことは、周りへの優しさでもある。

自分をご機嫌にすることは、生きる活力そのもの。

バルのおじいちゃんも、冒険する80歳の女性も、不器用にスペイン語を学ぶアメリカ人の夫婦も、みんな、今の自分を愛おしそうに生きていました。その姿は人間らしく、自由で、魅力的だったのです。

「私、自分のこと、ちゃんと大事にしてる?」

“だれかのため”に時間を使い、期待に応えようと、遠慮して、自分を後回しにしてきた私たち。でも、人生の後半こそ、「私の番」が、ようやく来るのかもしれません。

そんなふうに思えるようになったのは、スペインという日差しの国にいたからです。私がこの地で得たなによりのギフトかもしれません。