女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でありその後も定期的に訪れるスウェーデンのことなどを写真と文章でつづります。今回は、95歳の父と87歳の母への思いを、1人っ子ならではの視点で赤裸々に語ります。
すべての画像を見る(全3枚)フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと
桜の季節に感じる両親への感謝
「今年も桜を見ることができたね」
桜の季節に、そんなふうに感じるような年頃になりました。ましてや今年95歳の父と87歳の母をもつ私にとっては、両親が健在でいてくれることへの感謝を、見事に咲いてくれた桜に語りかけたい気持ちになります。
昔のように両親と花見に出かけることは難しく、お花見日和に外出する気分になれない自分にジレンマを感じている父。それでも95歳でありながら、自立した生活をしている姿にはあっぱれと言いたくなります。
母の入院と父のひとり暮らしへの不安
じつは今年に入り、母は兼ねてから痛めていた股関節の外科的手術をすることに。現在も病院で、術後のリハビリのための入院生活を送っています。
普段は両親2人で暮らしてたので、それまでは「便りがないのは元気な証拠」とばかりに安心していましたが、しばらくは父ひとりでの生活となるため、一気にいろいろな不安が押し寄せてきました。
なにしろ私は、ひとり娘なのです。子どももいません。この年齢になり、兄弟・姉妹がいない心細さを実感しています。その一方で、ひとりなので気兼ねすることなくさまざまな判断を自分でせざるを得ないと、腹を据えて考えることができます。
3日に一度、父のもとを訪れ、食事のつくり置きや掃除とゴミ捨てなどをこなす習慣が私の生活に加わりました。
父の誕生日での高熱事件
現在は少し落ち着き笑い話となりましたが、母が入院してまもなく、父が迎えた95歳の誕生日の日に最初の事件が勃発し、高齢の親の面倒を見る大変さを思い知ることとなりました。
その日仕事を終えた私は、父の好物である鰻(ウナギ)と簡単な誕生日プレゼントとともに、父の暮らすマンションへと向かいました。
誕生日であることを告げると、すこしぼーっとした様子で、どこか覇気もなく調子が優れないとボソッと呟きます。
「鰻も食べたいけれど食欲が湧かない」と珍しい反応でしたので、とりあえず検温してみると表示された体温は「39.9℃」。
まさかの高熱に驚き何度も測り直しましたがいずれ39.5℃を超えているため、誕生日のお祝いどころではなく、看病の態勢へと変更となりました。
意外なことに、それほどの高熱でありながら苦しそうな素振りはなく、横になるとすぐにスヤスヤと寝息を立てる父親の横で、さてどうしたものかとしばし途方にくれてしまいました。