画廊と美術館での学芸員経験をもち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さん(75歳)は、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。年金節約者の小笠原さんの暮らしのモットーは、節約をすること。そんな小笠原さんが昨年、怪我によって入院することに。当時を振り返り、苦労したこと、そして今後の教訓にしたいことをつづってくれました。
すべての画像を見る(全3枚)ひとり暮らし、いざというときの入院準備はしていたけれど…
私の家の押し入れには、「入院バッグ」が1つ入っています。いつかの緊急入院時にあわてないようにと、パジャマや肌着、洗面具や筆記用具などが詰めてありました。
ところが昨年、外出先でうっかり転び骨折をしてしまい、そのまま救急車で搬送されて手術。都合120日という月日、入院する事態になりました。
当然、自宅には戻れず、入院バッグは「おいてけぼり」となり、歯磨きセットや石けんやシャンプー、ティッシュなどは、病院内の店で買うことになりました。
また寝巻やタオルや肌着などは、私のようなひとり暮らしには、レンタルで借りて洗濯してもらえるシステムになっていました。借りる品数によって一日500円~1000円です。それはお高い!
しかしながら、洗濯してもらえる人のいない私にとってはいたしかたない出費でした。
結局、病院に持ち込んだものは、普段のバッグだけ。
中には常備薬や予備金、保険証や予備のマスクなどが入っていたので、それらは役に立ちましたが、病院では借りることのできないスマホの充電器を持っていなかった点は、各所に連絡をするのに苦労しました。
というわけで、今回は入院バッグを活用できませんでしたが、その準備は、いざというときのための安心材料になります。
不安になったのは、入院にかかるお金
突然入院した私は、今後どれほどお金がかかるのか、ベッドの中で不安を募らせていました。
最初は4人部屋に入りましたが、そこでは差額ベッドという費用が一日2000円ほどかかってしまいます。
長期入院のため、破産しそうな不安に駆られ、途中から無料の大部屋に移らせてもらいました。それでも、こういった緊急時に備えて、日頃から節約しておいてよかったとは思ったりもしたものです。
ところで私はその入院中、他の患者さんたちの入退院による入れ替わりで、20人余りの人たちと同室になり、日常では見ることのできない人間模様に接することになりました。
病室は各ベッドがカーテンで仕切られているので、歩くことのできない者たちが入った私の部屋では、それぞれ顔を合わせることもなく、ただ看護師とか交わす患者の会話がカーテン越しに聞こえるだけでした。
なかには、思いもかけない事態に遭遇して10日間ほとんど口もきけず、食事も受けつけられずに転院していった方もいました。
もっともつらかったのが、「トイレ問題」
次はリアルでシビアなお話しですが、絶対安静で動けない患者にとって最も重大なのが「トイレ問題」なのです。入院中寝ているしかない私はその壁に当たりました。大人がおむつを使う困難さ! だれも一遍でクリアできた人はなく、激しい便秘に苦しみます。寝たきりを強いられる経験をされたことのない幸運な方、想像だけでもされておかれると、衝撃は少ないでしょう。
災害時の避難所でのトイレ問題同様、とかく伏せられがちな話題ではありますが、このトイレ問題はもっと多くの人が検討しなければならない課題だろうと、つくづく思いました。