親族に見捨てられた養母を救ったのは…
斎藤:やがて高峰は脚本家の松山善三という誠実な男性と結婚するのですが、養母を通して高峰から金を吸い取っていた親類たちは、養母がボケると、もう利用価値なしとばかりに、ガーゼの寝巻きに空のハンドバッグだけ持たせて高峰の家の前に捨てていったそうです。
――なんと。親類たちは、用なしになると着の身着のままの状態で捨てていったのですね。それは哀れとしかいいようがありません。
斎藤:信じられないでしょうが、事実です。その養母を引き取って、高峰と松山は最後まで面倒をみるんです。
――それには本当に驚きます。高峰さんは、幼少のころから、運命に逆らわず、黙って受け入れる。仏のような広い心をもった方ですね。そして、松山さんも。
斎藤:高峰は養母のことを「私にとって反面教師だった」と。そんなひどい養母に悪影響も受けず、よくそう思えたものだと私は感嘆します。
――そうですね。自分だったらどうしたかと考えたとき、なかなかできない行動です。
斎藤:養母・志げの写真は『ふたり~救われた女と救った男』にも載せました。高峰が嫌がるかなと一瞬思ったのですが、高峰の人生にとってよくも悪くも大きな存在だったので。「ああ、この人か」ととくと見てください。金は人を変える、その典型的な人物で、なにからなにまで高峰とは正反対の人でした。
――そうですね。高峰さんは見事な生き方をしましたから。
斎藤:養母・養子の関係にある人は世の中にたくさんいると思うし、優しい養母もいらっしゃると思います。現に私の養母・高峰秀子と養父・松山善三は、私などにはもったいないほどの努力家で、優しい人でしたから。
――はい、とても幸せそうな3人の笑顔のお写真が『ふたり』に掲載されていますね。
斎藤:人生の幸せっていうのは、尊敬できる人にどれだけ出会えるかではないかと、この頃思うんです。まもなく扶桑社で復刻される高峰の著書『おいしい人間』を読むとそのことが納得していただけると思います。でも養父母との関係が逆の場合、好ましくない関係の人でも、決して絶望したりせず、人生を前向きに、自分の理想を捨てないで生きれば、きっといいことがあると思います、高峰のように。
――そうですね。家庭環境で悩んでいる方もそうでない方も、勇気をいただけると思います。最後の質問です。高峰さんの夫・松山善三さんのお母さまは、どのような方だったのでしょうか?
斎藤:松山との結婚を決めたあと、高峰は初めて松山の母親に会うのですが、そのとき、母親にかけられた言葉に衝撃を受け、そして涙が。それはどんな言葉だったか? ぜひ『ふたり~救われた女と救った男』に掲載している高峰の随筆「お姑(かあ)さん」を読んでください。きっと感動しますよ。
――ありがとうございます。肉親の愛に恵まれなかった高峰さんだからこそかけた随筆ですね。ぜひ読んでいただきたいです。高峰さん晩年の名随筆『おいしい人間』の復刊も楽しみです。
貴重なプライベートアルバムと高峰秀子さんの随筆、言葉、斎藤さんが長年収集した貴重な資料や斎藤さんしか知らない情報を解説に付して、ひと組の男女の数奇な運命を描いた『ふたり ~救われた女と救った男』(扶桑社刊)。懸命に生きていればきっと未来は開ける、読めばだれもが励まされる一冊です。
ふたり ~救われた女と救った男
高峰秀子さんの名著、復刊のお知らせ
1992年に初版が発売され話題となった高峰秀子さんのエッセイ集が復刊します。
内田百閒先生からの一通の手紙、イヴ・モンタンとの再会、藤田嗣治のアパルトマンでの日本食づくり、司馬遼太郎との食膳に有吉佐和子からの長電話など、大切な人々とのくすりとする思い出。心と胃においしい一冊です。
おいしい人間
トーク&サイン会のお知らせ
●1月2日(火)~11日(土) 銀座・歌舞伎座の木挽町ホールで「高峰秀子が愛した着物展RETURNS」開催。
1月4日(土)には、14時から会場で斎藤明美さんが新刊『ふたり』についてトーク&サイン会を開催。
●1月5日(日)、横浜シネマリン(映画館)で高峰主演「放浪記」上映後、斎藤明美さんのトーク&サイン会を開催。新刊『ふたり』のお話もします。
「高峰秀子生誕100年プロジェクト」展覧会情報の詳細は下記をチェック
展覧会|「高峰秀子生誕100年プロジェクト」公式サイト