この30年間で約2倍に増加したアトピー性皮膚炎。子どものアトピー性皮膚炎に胸を痛めているESSE読者は少なくないようです。そこで今回は、小児科医でアトピー性皮膚炎に詳しい堀向健太先生に、病気の原因や保湿ケアの大切さ、最新の治療法について教えていただきました。治療の心構えや日常生活で役立つヒントも紹介します。
アトピー性皮膚炎は30年間で約2倍に増加。正しい知識と小さい頃からのケアが大切
この30年で約2倍以上に増加しているアトピー性皮膚炎※1。患者数は皮膚疾患のなかでもっとも多く、最新の調査では100万人以上に※1。年齢層でいちばん多いのは、1〜4歳までの小さな子ども※1。約8割は軽症※2ですが、つらいかゆみで睡眠が十分にとれず、それが成長に影響することも…※3。小さな子どもゆえのケアの難しさに、悩みが深くなりがちです。
「アトピー性皮膚炎は、よくなったり悪くなったりを繰り返す、かゆみを伴う病気です※4。症状がぶり返しやすいのは、治療によって一時的に皮膚の炎症が治まったように見えても、炎症の火種が皮膚の下でくすぶり続けているから※5。火が完全に消えるまで治療を続けて、寛解※6を目指すことが重要です」と話す堀向先生。そして治療の柱は3つあり、「保湿ケアでバリア機能を高める・アレルゲン※7を排除する・かゆみを抑える薬物治療」とのこと。
「炎症が悪化するとアレルギー体質や皮膚の乾燥が強まり※8、その後の治療がより難しくなります。アレルギー専門医の下で、早めに治療を始めましょう」
●読者も悩んでいます!
2020年アトピー性皮膚炎患者数 125.3万人※1
・子どもが寝ながら無意識にかいてしまって…。お風呂で温まるとかゆくなるのも気になります。(K.Kさん)
・薬を塗って治っても、すぐにぶり返してしまいます。これは一生続くのでしょうか…。(N.Mさん)
・汗を少しかいただけでプツプツとかゆみが出てきます。こまめにお風呂に入れるのも大変。(N.Mさん)
・いつまでたってもすっきり治らないです。ステロイド剤を塗り続けていて、副作用が心配です。(H.Mさん)
【レッスン1】原因と症状を学ぼう!
●3つの要因が絡み合って悪化します※9
もともと皮膚が乾燥しやすく刺激を受けやすい体質の人がなにかしらの刺激を受けると、アレルギー症状が次々に起こり、免疫システムが破綻していきます。するとわずかな刺激でもかゆくなり、かき壊すことで皮膚のバリア機能がボロボロに。これが繰り返され症状が長引いてしまうのです。
一時的によくなっても、皮膚の下では炎症の火種が残っています(かくれ炎症)※5。このかくれ炎症が改善するまで治療を続けることがぶり返しを防ぐポイント。たとえるなら、炭火の火がすぐ消えないことに似ています。
【レッスン2】正しい治療法を学ぼう!
●かゆみや乾燥肌を改善する新薬が次々登場しています
現在、標準治療で良い状態を保てない中等症※10以上の患者さんは、飲み薬や注射薬という治療の選択肢があります。さらに、2023年以降乳幼児から使用できるようになってきており、選択肢が広がっています。
「患者さんの皮膚は水分や皮脂が不足しているため、保湿ケアを毎日行うことが必要です。そこに、かゆみや乾燥肌を改善するための塗り薬・飲み薬・注射薬を、症状を見ながらバランスよく組み合わせていきます」(堀向先生、以下同)
治療方針を決めるうえで大切なのが、患者さんからの情報です。
「聞きたいことをまとめたメモや、悪化したときの写真を持参いただくと、限られた診察時間のなかで内容の濃い対話ができます。かくれ炎症の状態など、触診でわかることも多いので、お子さんと一緒に受診してくださいね」
●おもな3つの治療方法
<塗り薬>
ステロイド外用薬だけでなく非ステロイド性の塗り薬も複数あります。新薬を含む4種類あり、生後3か月から使えるものも。
<飲み薬>
強いかゆみを抑え、乾燥肌も軽減する。2歳からと12歳から使用できるJAK阻害薬※11がある。中等症※10以上の人向け
<注射薬>
サイトカイン※12の過剰な産生を抑える新薬。強いかゆみと乾燥肌が改善する。即効性があり乳幼児から使用できるものもある。中等症※10以上の人向け
子どものアトピー性皮膚炎に悩む読者のお悩み相談Q&A
治療の心構えや日常生活で 役立つヒントを、堀向先生に教えてもらいました!
●薬だけに頼らず、日常生活でできることは?
保湿ケアを毎日丁寧に。薬は減らしていけます
丁寧な保湿ケアで症状の悪化を軽減できる可能性があり※13、薬も減らしていけます。皮膚の炎症が見えなくても、自分に合う保湿剤を1日2回たっぷり塗りましょう。
●石けんで洗わない方がいいですか?
洗っても大丈夫。ただし、洗いすぎには注意を
水資源の豊かな日本では、石けんを使って洗う方がアトピー性皮膚炎の発症が下がるという報告があります※14。ただし、こすりすぎや刺激の強い洗浄剤の使用は避けて。
●子どもの保湿ケアを続けるのが大変です…
楽しいことと一緒に習慣化を目指して
ケアをしたあとはお子さんの好きなことをしたり、きれいになった肌を病院の先生にほめてもらったりして、子どもが自分からケアをしたくなる環境を整えてみましょう。
●どの科を受診するのがいいですか?
学会のホームページで専門医を探しましょう
アレルギー専門医や皮膚科専門医に診てもらいましょう。アレルギー専門医は「日本アレルギー学会」、皮膚科専門医は「日本皮膚科学会」のホームページで探せます。
11月(いい)12日(ひふ)は「皮膚の日」
アトピー性皮膚炎啓発サイト『アレルギーi』には治療法などの役立つ情報が載っています。
※1 出典:厚生労働省「令和2年患者調査」
※2 アレルギー 2021; 70(10):1257-1342.
※3 PMID:25493447
※4 PMID:35996152
※5 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
※6 悪化する可能性はあるが、症状がなく、日常生活に支障がないこと
※7 ダニなど、アレルギー症状を引き起こす原因物質
※8 PMID:19720210
※9 PMID:23473856
※10 標準治療では長期寛解維持ができないアトピー性皮膚炎の人
※11 アトピー性皮膚炎の炎症や痒みに関わりのあるヤヌスキナーゼ(JAK)をブロックすることによって、皮膚症状や痒みなどを短期間で改善させる内服薬
※12 免疫システムでかゆみの情報を伝える物質*MAT-JP-2406513-1.0-10/2024
※13 PMID:29419920
※14 PMID:27596709
問い合わせ先/サノフィ https://www.sanofi.co.jp/ja