最近では、結婚しない、または子どもがいない「おひとりさま」が増加しています。そうした方々が直面するのが、老後や相続の不安です。相続実務士の曽根恵子さんは、「老後のために、認知症や相続の準備を整えることが重要」と話しています。しかし、準備だけでは不十分。信頼できる人に託すことも必要です。そこで注目されるのが「死後事務委任契約」という制度。曽根さんに詳しく教えてもらいました。

悩む女性
死後の手続きなど悩みはつきません…(※画像はイメージです)

死後の手続きや雑事を第三者に頼んでおく

決めておくだけではたりず、決めたことを信頼できる人に託しておくことが必要です。おひとりさまのように頼れる人がいない人のために、「死後事務委任契約」という制度があります。

死後事務委任契約とは、死後に起こる手続きや身辺整理を、第三者が責任をもって行ってくれることを生前に契約しておくことです。

亡くなる前に準備しておくものとして「遺言書」があります。しかし、遺言書に書かれた内容のうち法的な拘束力があるものは、民法に規定されているものだけ。死後のことを誰かにお願いすると遺言書に書いても、それが実現するとは限らないのです。

一方、死後事務委任契約は、本人と第三者との契約なので、確実に履行されます。

人が亡くなると、死亡届の提出や火葬・埋葬の許可申請、年金や社会保険に関する手続きのほか、遺品の整理や部屋の片づけ、パソコンやスマートフォン内の電子データやインターネット上の情報などの整理といった、さままざまな手続きや雑事が必要です。

死後事務委任契約で委任できること、できないこと

死後事務委任契約でお願いできることを具体的に見ていきましょう。

まず、「葬儀や納骨」に関することです。通夜を行うのか、告別式の規模はどれくらいが、だれに参列してほしいのか、死去の連絡はだれにするのか、葬儀・納骨費用の精算はだれに頼むのか、といったことを決めます。

次に、死亡届の提出、健康保険や介護保険などの社会保険関係の手続き、年金事務所への連絡、住民税や固定資産税などの税金の納付などの「行政手続き」に関すること。

そして、「生活」に関することもお願いできます。遺品整理や水道光熱費等公共料金の支払いと解約手続き、賃貸物件で暮らしているなら部屋の解約や明け渡し手続き、パソコンや携帯電話の個人情報の抹消処理や解約手続き、SNSなどのアカウント削除、クレジットカードの解約などがこれに当たります。

しかし、死後事務委任契約で頼めないこともあります。それが、相続分の指定や遺産分割方法の指定といった相続に関すること、遺言執行者の指定など。これらは遺言書で指定する必要があります。

また、生前の財産管理や身のまわりのことについては委任することができません。これらを頼みたい場合は、財産管理契約や見守り契約、後見制度などを利用することになります。