人生100年時代、ひとり暮らしをするシニアが増えている昨今、多くの人の暮らしに注目が集まっています。なかでも、今年104歳になった石井哲代さんの人暮らしぶりがたちまち人気に。そんな哲代さんは子どもに恵まれなかったと言います。書籍『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』(文藝春秋刊)から、子どものこと、亡き夫(良英さん)のことについて語った文章について抜粋でお届けします。

石井哲代さん
石井哲代さん
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痛みを分かち合いながら夫婦で年を重ねてきました

私たち夫婦には子どもがいませんでした。それで「夫への申し訳なさ」がいつも心にあったんでございます。

子どもができんのは男の人のほうにも原因があるかもしれんって、今じゃあよう聞きますね。じゃがね、当時の私にはそがあなことは分かりません。全部、自分が悪いんだと思っておりました。良英さんがお酒を飲むのも、そのせいじゃないかって。月給を飲み代に使うのも、うさのはけ口だと思うてしまって。立場が弱いっていうかね、強くはよう出なんだんです。仕方がナイチンゲールです。

でもね、良英さんは「そがいに思い詰めんでいい」って言ってくれたことがありました。私のことを責めたり、追い込んだりしたことは一度もなかった。良英さんもやっぱりしんどかったと思います。後継ぎがおらん寂しさや不安を私と同じように感じとっちゃったはず。そんな痛みを分かち合いながら夫婦で年を重ねてきました。そういう連帯感みたいなもんに、私は支えられとったんかもしれんなあと思うんです。

良英さんは晩年、脳梗塞を患って自宅の洋間に置いた寝台に寝ていました。地域の仲間が集う「仲よしクラブ」に行ってくるよって声をかければ「おうおう」って送り出してくれて、帰ったら練習した踊りを踊って見せたこともありましたねえ。終わりに向かうほど良英さんは優しく、まるうなっていった気がします。