画廊と美術館での学芸員経験をもち、美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らし。年金暮らしで倹約家の小笠原さんは、「もの」を少なめに持ち、すっきりと暮らしています。持たない暮らしをする理由について語ります。

小笠原洋子さん
小笠原洋子さん
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年齢的にも、徐々にものを手放していく

「もの」をなるべく所有しないでおこうと思うのは、「もの」ではないものを得るためなのです。どういうことかというと、家具を退けて床面をすっきりさせることは、より広い空間を得るということにもなります。

家具と床のどちらがいいかといえば、ほとんどの人の答えは家具かもしれません。でも私は空のような風のような空気が渡る床のほうが好きです。床もまた「もの」ではありますが、この場合の床は、より空間・空白に近いものとしてください。

広い床

たとえば私が死んだら、団地の管理会社がわが亡きがらだけでなく、所有物の処理にどれほど困るか考えると、この年で多くのものを所有する気にはとてもなれないのです。魅力的な商品サンプルをながめる時間を、後片づけタイムに回す。今はそれが私の仕事だと思っています。

多くの人にとって価値があるけど、捨てる決断をした「手紙」

最近のことですが、子ども時代から捨てないであった手紙類を押し入れの奥の段ボール箱に見つけ、ぎょっとしました。その量たるや、1000通に近かったのです。これらは私にとっては価値のあるものでも、私が死ねば価値はなくなります。宛名や住所が記された手紙類を、どうしてもそのまま捨てることをはばかられた私は、その個人情報部分をハサミで切り刻んでいったのです。

暇人といえばそれまで。しかし質的にも、大いなる処分の一幕でした。それに個人情報のかたまりですから、万が一差出人に迷惑がかかったりしないようにとの思いから取りかかったのです。その作業中ざっとではありますが、すべての書簡に私は目を通し、過去と去りし人たちの思い出に何度何十回、何百回と心ふるわせたことでしょう。捨てることで得られた意義ある数か月間でした。