いつの間にか距離が縮まっていた!

また定期的にうちに来てくれて、母と墓掃除をしてくれるおばさんがいる。このまえもお彼岸前日の3月16日に来てくれた。蛇足だが、おばさんは毎回大量のパンを買ってきてくれる。おばさんが来てくれたあとの3日間は食事が3食パンになり、それでも冷凍するくらいの量。

犬
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私はなかなかタイミングが合わず、久しぶりにおばさんに会えたが、おばさんと犬の距離がものすごく縮まっていて衝撃を受けたのだ。

もともとおばさんは、犬にとって警戒する相手であった。おばさんが自分に近寄ったり、自分に近寄らなくても家に入ったら吠えていたのが、なんと、なんとである、おばさんが犬を撫でているではないか。たとえるならば、犬と散歩をしていたら、正面から河童がツチノコにリードをつないで歩いてきて、犬とツチノコが喧嘩しないように私と河童が足早に去り合うくらいの並々ならぬ衝撃である。

犬

それほどの光景を前に、思わず「撫でられてるやん!」と叫び出しそうになったのをこらえた。口から出なかった言葉が喉元を通っていく感触があった。せっかくの和やかな雰囲気を壊すのを避けた。

ひどく慎重になりながら「オバチャン、スゴイ、犬の背中撫でてる、ビックリした」とたどたどしく言うと、おばさんは「結構前からやで? なぁ?」と犬に笑いかけた。

おばさんの喋り方は語尾が跳ねていて、軽やかに聞こえる。「ヘエ」と相槌をひとつ打つ。内心、紙に水を垂らしたときのように喜びがじわりじわりと広がっていくのを感じた。犬を撫でられる人が増えるのは、どうしてだか心底うれしい。

犬

おばさんはひとしきり犬を撫でて立ち上がると「撫でられ賃あげやなな」と言っていったん家に入った。なんですかそれは。そしてすぐにジャーキーを手にして戻ってきた。

まったく耳なじみのない「撫でられ賃」という報酬に、今回は飲み込まずにお腹から笑い声を上げた。撫でられ賃のジャーキーをおばさんの手ずから犬が食べて、ふたたび驚くことになった。

おばさんと犬のように、歳月のなかで育まれる友好関係もあるのだな。そんなの人間同士ではよくあるが、犬と人間間であっても同様なのか。

犬

なんだか私の感受性はこと犬に関してよく働くように思う。犬にまつわれば些細なことでも過剰なほどに驚き、憂い、笑うのだった。