若年女性がん患者の選択肢のひとつとして、妊娠するために必要な能力(妊孕性・にんようせい)を温存する「妊孕性温存療法」が注目を浴びています。37歳のときステージ4の悪性リンパ腫と診断された宮子さん(仮名)のケースをご紹介。凍結していた卵子で顕微授精を行って、42歳で元気な男の子を出産しました。監修者のローズレディースクリニック院長・石塚文平先生による解説も。

患者
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37歳でステージ4の悪性リンパ腫が発覚

宮子さん(仮名)は、1歳の男の子を育てている44歳。夫の転勤に伴って移住した地方都市で、穏やかな暮らしを送っている主婦です。

出産前までファッションモデルの仕事を続けていた彼女は、37歳の時にヘアメイクの女性に首にできたしこりを指摘され、順天堂大学医学部付属順天堂病院を受診しました。

「まさか本当にがんに罹患しているとは思わず『安心を買う』つもりで専門医に診てもらったのですが、検査の結果はステージ4の悪性リンパ腫。CT画像があがってきたときは、病室が不穏な空気に包まれるほど体中にがんが広がっていました」(宮子さん)

初めての抗がん剤治療ではパニックに

心配した母親から「すぐ実家に帰っておいで」と言われた宮子さんは、仕事をすべてキャンセルして、帰郷することに。紹介状を書いてもらい、地元の「石巻赤十字病院」で治療をはじめます。

「初めての抗がん剤治療では『体に毒が入った』と感じ、思わずうめき声を漏らすほどの苦しさに、パニックになりました。また、毛が抜けたときは『本当に元に戻るのだろうか』と不安になったことも。苦しいときは、子どもの頃に遊んだ海やお気に入りの神社で散歩をしたり、スマホケースを新調するなど『小さな幸せ』をチャージし、できる限り笑顔で『その日にやるべきこと』をひつつひとつ乗り越えてゆきました」(宮子さん)

『ママになりたい』という夢が捨てきれず…

赤ちゃん
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持ち前のポジティブさで家族とともに「今」に集中し、自然の中でリフレッシュしているうちに、宮子さんは奇跡的なスピードで回復。治療開始から半年後に受けた検査で、医師に寛解(かんかい)を告げられます。

「東京に戻り、最初に受診した順天堂大学病院で、CT画像を見た医師や看護師たちからは、だれからともなく拍手が起きて、うれしく思ったことを覚えています。しかし同時に、再発の可能性は低くないという現実も突きつけられ悩むことに。当時の私はアラフォーで婚姻歴も出産歴もなく、恋人もいない状況。『ママになりたい』という夢が捨てきれず、妊孕性温存のために卵子凍結をしたいと相談しました。

主治医からはまず同大学病院内の婦人科を紹介され、婦人科医師から『数値を見る限りだと妊娠の可能性は極めて難しい』と告げられましたが、『うちよりも不妊治療に特化した病院を紹介しますね』と『東京都若年がん患者等生殖機能温存治療費助成事業』の指定医療機関であるローズレディースクリニックを紹介されました」(宮子さん)

宮子さんは、わらにもすがる思いでクリニックを受診。検査の結果、卵巣機能が著しく低下していることを告げられます。しかし「可能性は0%ではない」という主治医の言葉を信じて、およそ2年かけて7個の卵子を採取しました。