犬が眼球を嗅ぎにくるのはたまにある。気のせいかもしれないが、化粧をしているときや、化粧を落とした直後に嗅ぎにくると思う。
“犬が匂いをかぐのは人が新聞を読むようなもの”だと本で読んだが、今右目を終えて左目を熱心に嗅いでいるのも、なにか情報を得てるんか?
「フ~ン!」と最後に大きく息を吐くと(もちろん眼球直当たり)、背中を向けて私の頭におしりをつけて座った。
露骨に、そして猛烈に、甘えてくる。二日ぶりやし二人しかおらんから? 犬のデレに応えたくなって、起き上がってみる。犬は離れていかない。
たまに自分から近寄ってきても、私が反応したら「いやそれはちゃうねん」と離れるときもあるのだ。それもしない。ということは、である。
犬の名前を呼びながら背中を撫でてみると、犬はこれまたゆーっくりと上体をおろし、まず腕をついて、頭を倒して、上体も床に預けて、横になった。私が撫でてから寝転ぶまでの判断は超早いのに、「腕をついて次は頭で…」とのっそり動くのが愛くるしいね。
横たわった犬を撫でながら、つぎは私がにおいを嗅ぐターンだ! 最近はマズルのヒゲが生えている黒い点々のあたりを嗅ぐのが好きだ。黒い点々に鼻をつけて、肺いっぱいに吸う。
心の深部から落ち着くにおいを醸し出している。なににもたとえられない。私にとって犬のにおいは犬のにおいでしかなく、連想ができない。だが逆に犬のにおいみたいだと思う場所や物と出くわすのは多々ある! 映画館、おにぎり、お寺、古本…。いろんな場面で犬を思い出す。
マズルから顔を離して犬を見つめる。「ただいま」とほぼ吐息で言うと、犬が相槌を打つように目を細めてくれた。「もうええって」の目はしてへんかった、分からんけど。