●人生が作品に反映されるので「もう恋愛ものは無理だわ」

漫画塾
漫画塾で生徒さんと。「みなさん、絵というよりもストーリーで苦労されますね。いろんな人が来てくれるから、若者の言葉や今のカルチャーがわかる。私にとってもいい機会なんです」
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大学講師の仕事は60歳から74歳まで、15年間続きました。その間には夫を見送ったり、漫画で大きな賞を受賞したり。
「今は自宅で漫画塾を開いています。まったくの初心者もいれば、すでにデビューしている人もいる。下は10歳の小学生から上は65歳のおじさんまで。みんな絵はそこそこ描けるんですよ。でも、ストーリーをつくりなさい、っていうと、とたんに手がとまる。そこが難しいところなんですよね」

受賞
リビングルームに飾られた楯は、第48回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞したときのもの(単行本『夕暮れへ』で)

人生で経験したこと。そのときに感じた心模様。人の心理や反応。そうしたすべてが、作品には反映されます。

「私が高齢者をテーマに描くのは自然なことなんですよ。逆に今から恋愛ものを描くなんて絶対無理(笑)。若い人にもいつも言うんです。『今のその気持ち、覚えておきなよ。いつかきっと役に立つ日がくるから』って」

●ひとりは不安だけど、頼りになるのが団地のよさ

友の会
散歩のついでに気軽に立ち寄れる距離に、図書館があります。「手元に欲しい本は買いますが、今話題の本やちょっとした調べ物には便利。友の会に入っているといろんな人とも出会えます」

若い人たちと触れ合うことで、いまの「時代」を知ることもできる。近所の図書館では「友の会」にも参加しています。

「先日も、長年新聞社で記者をしていたっていう人から、国際情勢についての講義を受けたんです。顔見知りでも相手がどんな仕事をしているか、案外知らなかったりしますよね。でもじつはすごいキャリアの持ち主だったりするし、なんかしらのプロだったりもする。やっぱり人っておもしろいなあと思うんですよね」

齋藤さんの作品には、人と人のあつれきや葛藤、孤独死も出てきます。齋藤さん自身、数年前には軽い脳梗塞を経験しました。その時の様子は、漫画にも描きました。

「ひとりは気ままだけど、不安だし、寂しくもある。でも嘆いてばかりじゃしょうがないでしょ。みーんな似たり寄ったりですよ。だからこそ、人と触れ合うことでお互いが思いやれる。普段は相手の事情に踏み込まなくても、いざというときは気づかえる。頼りにできる。それが団地のよさかも知れません。前向きに生きていれば、大抵のことはどうにかなるもんです。大丈夫、心配いらないよ。それを伝えたくて漫画を描いてるのかもしれません」