●人生が作品に反映されるので「もう恋愛ものは無理だわ」
すべての画像を見る(全31枚)大学講師の仕事は60歳から74歳まで、15年間続きました。その間には夫を見送ったり、漫画で大きな賞を受賞したり。
「今は自宅で漫画塾を開いています。まったくの初心者もいれば、すでにデビューしている人もいる。下は10歳の小学生から上は65歳のおじさんまで。みんな絵はそこそこ描けるんですよ。でも、ストーリーをつくりなさい、っていうと、とたんに手がとまる。そこが難しいところなんですよね」
人生で経験したこと。そのときに感じた心模様。人の心理や反応。そうしたすべてが、作品には反映されます。
「私が高齢者をテーマに描くのは自然なことなんですよ。逆に今から恋愛ものを描くなんて絶対無理(笑)。若い人にもいつも言うんです。『今のその気持ち、覚えておきなよ。いつかきっと役に立つ日がくるから』って」
●ひとりは不安だけど、頼りになるのが団地のよさ
若い人たちと触れ合うことで、いまの「時代」を知ることもできる。近所の図書館では「友の会」にも参加しています。
「先日も、長年新聞社で記者をしていたっていう人から、国際情勢についての講義を受けたんです。顔見知りでも相手がどんな仕事をしているか、案外知らなかったりしますよね。でもじつはすごいキャリアの持ち主だったりするし、なんかしらのプロだったりもする。やっぱり人っておもしろいなあと思うんですよね」
齋藤さんの作品には、人と人のあつれきや葛藤、孤独死も出てきます。齋藤さん自身、数年前には軽い脳梗塞を経験しました。その時の様子は、漫画にも描きました。
「ひとりは気ままだけど、不安だし、寂しくもある。でも嘆いてばかりじゃしょうがないでしょ。みーんな似たり寄ったりですよ。だからこそ、人と触れ合うことでお互いが思いやれる。普段は相手の事情に踏み込まなくても、いざというときは気づかえる。頼りにできる。それが団地のよさかも知れません。前向きに生きていれば、大抵のことはどうにかなるもんです。大丈夫、心配いらないよ。それを伝えたくて漫画を描いてるのかもしれません」