フィンランドの少女文学の原点ともいわれる『オンネリとアンネリ』シリーズ。1960年代に発表された原作をもとに、近年映画化が続き、フィンランドではもちろん、日本でも静かな人気を得ています。
映画化第3弾となる『オンネリとアンネリとひみつのさくせん』が、5月より劇場公開されることが決定。
ここではフィンランド人の夫をもち、北欧文化に詳しいルミコ・ハーモニーさんに、『オンネリとアンネリ』に見る北欧の子どもの文化、そして幸福観を解説してもらいました。
子どもの独立心を大事にする、北欧の子育て観、幸福観とは
2月9日~15日、「ノーザンライツフェスティバル」という北欧の映画祭が、都内のユーロスペースを中心に開催され、『オンネリとアンネリとひみつのさくせん』の上映後、トークショーに登壇してきました。
『オンネリとアンネリ』は、フィンランドの児童文学が映画化されたシリーズで、2018年6月に本邦初公開された『オンネリとアンネリのおうち』に続き、11月には『オンネリとアンネリのふゆ』が劇場公開されています。
さらに今回の映画祭での反響を受け、『オンネリとアンネリとひみつのさくせん』も、5月25日より上映が決定。
なにが日本人の観客の心をつかむのでしょうか?
●日本と異なるフィンランドの子どもの暮らし
『オンネリとアンネリ』は、9人兄弟の大家族に生まれ、自分がいてもいなくても気づかれない少女・オンネリと、離婚した親の間を行き来して、どこか自分の居場所を見つけられない少女・アンネリの物語。
1作目の『オンネリとアンネリのおうち』は、ふたりが大金を拾って正直に届け出たところ、そのお金が自分たちのものになり、2人で暮らす家を購入する、というストーリーでした。
日本の感覚だと「えっ? 子どもたちだけで住むの?」と疑問に思いますが、フィンランドでは“レイキモッキ(Leikkimökki)”という子どものミュニチュアハウスを、日曜大工で庭に建てることが多いです。
実際にそこにティーカップを持ち込んでティータイムをしたりもします。「親の目から離れて心配ではないのか?」という声が日本だとあがりそうですが、フィンランド人は、まず子どもを信頼して好きにやらせてあげることで、独立心を育むと考えているようです。
新作『オンネリとアンネリとひみつのさくせん』では、孤児院が登場します。映画では9人の子どもが暮らしている設定でしたが、原作は20人の子どもたちでした。
私は「撮影の都合上20人も集めるのは大変だから、9人で十分という判断だったのでは?」と単純に考えていましたが、フィンランド人の夫はこの変更を深刻に受け止めていたようで、首を横に振り、「そうではなく、原作が書かれたのは1960年代だったから20人にしたけれど、今のフィンランドでは一人で20人の面倒をみるなんておかしいということになるから、9人にしたのだろう」と言いました。
確かにフィンランドの学校は少人数制で、一人一人の進捗が尊重されます。
日本だと1人の先生で30人程度の学級を編成するのが普通。どうしても個々に合わせるというよりは、全体の流れをいかに止めないかが重要とされがちです。ここに大きな違いを感じました。
●壁のないフィンランドの住宅と自然享受権
映画では、孤児院に高い柵が建設されましたが、通常フィンランドの住宅には、敷地を区切る壁がないことが多いです。
マンションの公園ですら柵や壁がありません。わが家の子どもたちが遊びに行きたがりましたが、夫は「壁はなくてもそこは私有地だから入れないのだよ」と説明していたことがあります。
相手の領域を侵さない、という前提が、フィンランドにはしっかりあるのだと感じました。
一方、森や湖などは、たとえ私有地であっても、個人の範囲で楽しんでいいという考え方の“自然享受権”が北欧にはあります。
ベリーやキノコなどは個人の楽しむ範囲では採取していいのです。
「だれもが自然の恵みを享受する権利がある」という考え方には、非常に感銘を受けました。
●個々を尊重し、懲らしめるという発想がないフィンランド文化
オンネリとアンネリの家の近くにできた孤児院は、とても厳しく安全第一で、庭に遊具も置かないような先生たちに支配されています。
日本だとそんな先生たちは「悪者」扱いで、「懲らしめてやる!」となることが多いですが、本作では異なった結末でした。
その人が大切にしていることを否定せず、適切な場所で幸せに生きるべきだという、北欧の考え方が非常に色濃く出ており、とても興味深いものとなっています。
フィンランドで長く愛され続けるマリヤッタ・クレンニエミの児童文学原作。『オンネリとアンネリのおうち』『オンネリとアンネリのふゆ』に続き大ヒット! フィンランドで、初登場2週連続1位、8週連続トップ10入り。国民の5人に1人が観る人気シリーズが、5月25日よりYEBISU GARDEN CINEMAにて2週間限定劇場公開決定。
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