●「猫ちぐら歴」30年の大ベテラン

職人
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少しずつ新しいつくり手が増える一方、「猫ちぐら歴」30年にもなる大ベテランがいます。当時88歳の横山ノブさんです。

息子さんが建ててくれたという、自宅の脇にあるプレハブ小屋がノブさんの作業場。ノブさんは毎日ここで「でえ好き」な猫のために、せっせと猫ちぐらづくりに励んでいます。

「農家だったから、むしろやござなんかをずっとつくっていて、わら仕事には慣れているの。この歳になっても、手ひとつあればできるんだから、ありがたいよ」

ノブさんは、まず、わらを束から1本1本選別して長さと節をそろえ、一日つくる分の量にまとめます。これはきれいに編むための秘訣であり、作業効率を上げる、ノブさん流の工夫。「きれいに仕上げれば、丈夫にもなる。長いことやって、わかってきた」

針金のハンガーで自作した特製の道具を使い、時折、飴玉を口に入れ、ニコニコ楽しそうにわらを編み込んでいくノブさん。穏やかな表情とはうらはらな力強さと、しなやかな手さばきから、みるみる形ができていきます。

「ノブさんがつくるちぐらの丸みは絶妙」と、伊藤さんがいうように、完成した猫ちぐらは、屋根がするりとなめらか。

「いままで何個もつくってきたけど、同じものはひとつだってないよ」とノブさん。だからこそ、工夫のしがいがあって楽しいのだと、笑顔でまた手を動かします。「ちぐらをつくってるから元気なんだな。まだまだ、やるよ。待ってる猫がたくさんいるものね」 

●買い手の中には、村をわざわざ訪ねてくれる人も

猫とシニア女性

関川村には、毎月のように猫ちぐらの嫁ぎ先から感謝の手紙が届きます。伊藤さんやノブさんは、購入者と手紙などをやりとりして交流を続けています。

「『いつも自分をいやしてくれる猫を、猫ちぐらでいやしてあげることができた』なんていってくれたり、20年も使いましたと、村をわざわざ訪ねてくれる人もいるんですよ」と、伊藤さんは目を細めます。

村おこしの一環だった猫ちぐら。稲わら細工の素朴な民芸品が、つくり手と買い手、そして猫たちをそれぞれに満たし、小さな幸せが広がっています。

伊藤さんの目下の悩み事は、お客さんを待たせてしまうこと。猫ちぐらは、完成までに10日ほどかかり、材料の稲わらをちぐら用に加工するのも、ほぼ手作業。どんなに注文が来ても、大量生産はできません。それゆえの、「6年待ち」なのです。

「民芸品だから、村の人だけでコツコツつくることにも意味があると思っています。すぐにお届けできないのは心苦しいけれど、心を込めて編んでいるので、気長に待っていてほしいですね」

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