女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第24回は、川上さんが支援を続ける保護の猫の「譲渡会」について。現場で知った「心のリバウンド」とは?

猫とフィーカ
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桜が散る季節になると、保護猫の「譲渡会」には一気に子猫がやってきます。生後2か月ほどを経て体重が順調に700グラムを超えてスクスクとボランティアさんのお宅で育った子猫たちは、みなフワフワの触り心地で、かぼそく甘えた声で鳴く姿はたまりません。

子猫
以前「ミルクボランティア」で預かった子猫

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奇しくもその年、世界中がコロナに巻き込まれ、全ての行動を制限せざるを得なくなる状況が来ることは予測できませんでした。1月に第1回目の譲渡会を開催し、月2回のペースでご縁を繋ぐ予定でしたが、その春には緊急事態宣言が発令され、東京の街も閑散としました。

それでも猫たちの営みは変わることなく、むしろ通常よりも子猫の数は多かったと聞きます。ステイホームに倣い仕事も中断。自宅で過ごしていた私も、3匹の子猫のミルクボラ
ンティアを初体験することとなりました。

●保護猫ボランティア活動の実態

横たわる猫
元々保護猫だった川上さんの愛猫タック

あれから3年。定期的に繰り返してきた譲渡会により現在では1000匹を超えるご縁が生まれています。保護活動に関しては素人の私ですが、毎回集まるボランティアさんたちの日々の活動を目にすると、その過酷な状況にただただ、頭が下がります。

保護した猫の面倒はもちろんですが、いつ何時レスキュー要請の連絡が入るやもしれません。晩酌が習慣だったある方は、好きなお酒も断ち、常に運転できる環境を整えたと聞きます。また、生まれたばかりで抗体ができる以前に母猫から離れた子猫は、突然に容態が悪化する危険があり目が離せません。

そして、譲渡会でのデビューが厳しい難病を抱えた猫や障害のある猫たちは、結果ボランティアさん自身が引き取り暮らすケースも多いようです。譲渡会の合間に、そんなかれらの日常を聞くたびになにか、力になれる手立てはないものかと考えさせられます。

●がんばるからこそ起きてしまう心の“反動”とは

その一方で、こんな話も耳にします。それは猫ボランティアさんに起きることがある「心のリバウンド」という現象です。過酷な状況に日々耐えながら、猫への愛情を唯一の支えに活動を続けているが故に、その反動とも思えるような攻撃的な態度が人に向けられてしまう現場を見ることがあるそうです。

分からないこともないことだと、深くうなずきながら、この「心のリバウンド」を考えてみると、そこにはたいせつなヒントが隠されていることに気づきます。

かつて女性の人権や自立を訴え活動していた人からは「女性の敵は女性だ」という発言がありました。「猫好きの敵は猫好き」と置き換えてもあながち、間違ってはいないのかもしれません。深刻なのは、両者ともが愛情に基づいて生まれる感情だからです。懸命だからこそ、芽生える感情だからです。

似たようなことは、猫を介さなくても、あらゆる場所で起こりうる問題なのではないでしょうか。大切なのは「がんばりすぎなくてもよい環境をいかにしてつくるか」なのだと思うのですが、そのためには感情的にならずに、一歩も二歩も引いた視点で判断する能力や発想力が必要です。