文筆家の大平一枝さんが、グリーンフィンガーとの出会いを求めて、東京・西荻窪の住宅地にたたずむ植物専門店・エルスールを訪れました。緑に包まれた建物の中に入ると、白い花たちがお出迎え。店主の渡辺邦子さんの「好き」が詰まった、訪れる人をも幸せにしてくれる場所でした。

店の外観
西荻窪の住宅街で、ほっと目が休まるさわやかな緑と白の小花の一角。外壁のモッコウバラは黄色と白が混じり合う
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原点は四つ葉のクローバー遊び。日本に唯一!?白い花中心の店

花屋の店先

路地を曲がると、すがすがしい緑の圧倒的な分量に目を奪われる。「あとちょっとでモッコウバラが満開なの」と店主の渡辺邦子さんは楽しそうに外壁を見上げる。店内は白、白、白。開店した31年前から白い花を中心に取り扱っている。

ヒールに可憐なニットのセットアップを着こなし、はつらつと接客をこなす渡辺さんは実は77歳である。いきなり年を書くのは失礼だが、彼女の健やかな美しさは、この店全体に漂う空気感に大きく作用していると思えてならない。

22歳で結婚、子育てを経て30代で服飾の世界に。派遣された百貨店のテナントでディスプレイの才能が開花した。組織に窮屈さを感じ退社すると、様々な店舗からディスプレイの依頼が来た。

 

鳥かごと花
鳥かごはコレクションのひとつ。空間のアクセントに

「とくに花を使ったスタイリングは得意でした。そのうち自分で何かお店をやりたくなってね。私は昔から好きなものがゆるがないの。色、器、コーディネート、そしてこだわること。花屋さんにはそれが全部あるわと」

子どものころからクローバーが大好きだった。香りも葉の形も編んで遊ぶのも。

つまりエルスールの緑と白の世界の原点は、クローバーなのだ。古いアパートをリノベーションして床を板張りに。店のドアはイギリスのパブで使われていたアンティーク。「好き」がつまった空間で花を愛でる彼女の幸せが、訪れた客にも伝染するかのよう。私はまた行きたくてしょうがないのである。