年齢を重ねるにつれ、ふとした瞬間に「老い」を感じることが増えてきますよね。90歳の現役作家・曽野綾子さんは自身、そして周囲の老いとどのように向きあってきたのでしょうか? 今回は、著書『人生の疲れについて』(扶桑社刊)で綴った、前向きな日々の過ごし方についてご紹介します。

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「老い」との向き合い方のヒントをくれる、曽野綾子さんの言葉3選

曽野綾子
曽野綾子さん

作家で名エッセイストとしても知られる曽野綾子さんの言葉には、年齢を重ねても苦労を喜びに変え、前向きに生きるためのヒントがつまっています。

 

●「手抜き、ずる、怠け」のススメ

高齢者の中には、年々できないことが増えることを悲しんで、しかも退屈している人がいる。しかし時間の変化というものは、人に日々新しい問題をつきつけてくれる。それに対してその都度対処していけば、年を取ることに対して一方的な負け戦にならないで済む。なかなかおもしろいものだ。

手抜き、ずる、怠け、などという性格は、昔から悪いものとされていた。しかし、手抜きだから続くこともあり、ずるいから追いつめられもせず、怠けの精神が強いからこそ、新しい機械やシステムの開発につながる。

 

●「安心しない」毎日を過ごす

今のところ、私の周囲を見回していて気づくのは、「安心しない」毎日を過ごすのが、いちばん認知症を防ぐのに有効そうに見える。だれもご飯をつくってくれない。だれも老後の経済を心配してくれない。だれも毎朝服を着換えさせてくれない。だれも病気の治療を考えてくれない、という状況がぼけを防ぎそうだ。要するに生活をやめないことなのである。

日本には今、幸せな老人が多すぎる。なんとか飢え死にはしない。行路病者などという言い方が昔はあったが、いわゆる行き倒れとして道端で死ぬこともない。楽しく遊んでいても、もう年だからと言うので、だれも文句は言わない。

しかしそういう恵まれた年寄りの方がどうもぼける率が高い、と、私と気の合う仲間たちは密かに思っているのである。