日本で経験した差別や貧困、いじめなど過酷な経験から得た思いつづった著書『言葉の花束 困難を乗り越えるための“自分育て”』(講談社刊)を上梓した、イラン出身の俳優、サヘル・ローズさん。幼少期を孤児院で過ごし、養子縁組をした養母と8歳のときに日本にやってきました。
サヘル・ローズさんが自身の経験から伝えたいこと
すべての画像を見る(全5枚)日本に来て経験したつらい体験から、サヘルさんが得た考え方はどんなものだったのでしょうか。著作に込める想い、子どもと親の接し方についてお聞きしました。
●たくさんの人に寄り添える本にしたかった
――2019年の秋から本書の執筆に取り組んでこられたとお聞きしました。
サヘル:じつは1年前に一度書き上げていたのですが、読み返したときに、「この子が出てくるのは今じゃない」と思って、一度全部白紙に戻しました。
本を出すのは13年ぶり。この13年間の経験、学んできたこと、向き合えたことや向き合えなかったこと、自分の弱さを一度整理することで自分自身、なにか変わるんじゃないか…。そういう気持ちも本に宿したかったので、再度書き直しました。
――執筆される上で大事にされたのはどういったことでしょうか。
サヘル:読む人を置き去りにしない、ということです。すべての方々になるべく寄り添えるものにしたかったから、言葉選びも慎重になりました。押しつけをしたくはないですし、成功例は読む人にとっては「すごい!」と思うかもしれない。
でも、そこからヒントを探すのはすごく難しいんです。あくまで、私が失敗したこと、学んで得られたものだけを純粋に提示したい。みなさんには「そうなってほしくないこと」をつめ込んだ1冊ですね。
●子育てに正解はないから、親も「しんどい」って言っていい
――作中には、サヘルさんの幼少期の経験が多く描かれています。ご自身の経験から、今の時代の子どもたちに知っておいてほしい、伝えたいと思うのはどのようなことでしょうか。
サヘル:子どもたちには親も一生懸命なんだよ、ということを知っておいてほしいです。
親もただの普通の人間で、子育ての正解も分からないのに、ひとつ間違えると親の責任だと言われてしまいます。ですから、親も弱い人だと知っておいてあげてほしいし、親も親なりに精いっぱいなんだよ、強がってるんだよ、って伝えたいです。
苦しいときに親に遠慮しちゃダメ。子どもが本当に苦しいときに親は味方だから、そういう苦しさも伝えてほしい。もしかしたら、子どもの「やりたい」と、親の「こうしてほしい」の意見が合わないときもあると思います。
でも衝突してもいい。まずは本音でぶつかってごらん、そうすれば親も本音を言ってくれるから、ということを伝えたいです。
――著書の中でも、お母さまがサヘルさんに弱いところを見せるシーンが書かれています。ただ、親が子どもの前で自分自身をさらけ出すというのは難しいようにも感じます。
サヘル:純粋に自分がしんどいということを言えたらいいと思うんですよね。
「理想の親をやらなきゃいけない」、なんて思う必要はまったくないんです。だって子どもを授かって、なにも分からないところから子育てを学んでいくわけじゃないですか。人が人を育てていくことに、正解はないんです。
「自分が間違っていたのかな」「ほかの人はできてるのに自分はできていない…」とか、周りの目を気にする必要はありません。親が向き合うべきなのは子どもだけ。
他人のために子育てをしているわけじゃなくて、「自分と自分の子どものため」ということを思い出してほしいですし、大人こそ「しんどい」って言ってほしい。言っても子どもには分からない、と思われがちですが、じつは子どもだっていろいろ気がついているんです。でも、自分からは「大丈夫? どうしたの?」って言えないですよね。
だから、素直に吐き出してほしいし、泣いたっていい。そういうリアリティをもった関係を親が子どもに提示することで、子どもも「心を通わせるということはどういうことなのか」を学べるんです。