欧米でアジア系住民へのヘイトクライムが急激に広まっています。アメリカ・シアトルでは、2月に日本人女性が暴行被害に遭う事件が起きました。
「シアトルの日本人コミュニティーは衝撃を隠せないでいます」と語るのは、家族でシアトルに暮らすライターのNorikoさん。身近に危機が迫るアジア系へのヘイトクライムについて、現地からレポートしてもらいました。
欧米で急増するアジア系住民へのヘイトクライム。コロナ禍でアジア系住民への「手のひら返し」が始まった
日本人女性が暴行被害に遭う事件が起きた場所は、シアトルのチャイナタウン。石を使った凶器で顔面を強打され、4か所の骨折という重傷を負いました。街中で、しかも非アジア系のパートナーの男性と一緒にいたにもかかわらず、突然襲われたといいます。
現場は私もよく知っている通りで、大きな日系スーパーマーケットを始め、日本風のベーカリーや居酒屋、おいしい飲茶店などがあることから、地元の日本人が多く訪れるエリアです。
●もともとシアトルはアジア系住民の多い土地柄
3月に入り、アトランタで起きたマッサージ店銃撃によりアジア系女性6人を含む8人が犠牲になった事件の報道や、バイデン大統領、ハリス副大統領からのアジア系住民差別を非難する声明、大坂なおみ選手ら著名人や有名ブランドなど各界からの訴えも続き、日本でもようやくアジア系を標的とするヘイトクライム(憎悪犯罪)の存在が認識されてきたように思います。
でも実際のところ、10年くらい前から私の周りでは、散歩中にきつくにらまれる、しばらく後をつけられるなど、ちょこちょこ不穏な話を聞くようになっており、コロナ禍の1年でこれまでたまっていたうみが噴き出したような気がしてなりません。
シアトルではここ10年、景気のいい中華系からのビジネス進出、不動産購入、高級志向の観光客や買い物客が年々増え、「ありがたいお客様」として、むしろ中華系がもてはやされていた印象がありました。もともとシアトルはアジア系住民の多い土地柄で、私自身、普段は差別を感じることがほとんどありません。それだけに、今回の出来事はショックでした。
経済的、精神的に落ち込んだ状態ではどこの国でも、どんな人でも、狂気の入り込む隙が出てくるものです。アメリカが日本と違うのは、銃やドラッグを容易に入手できてしまう社会だということがあります。
そして、このコロナ禍でアジア系が表立って敵視されることになったのは、新型コロナウイルス発生源をめぐり、中国を非難する政治家らの発言やメディアの影響が少なからずありそうです。
最初の頃は中国、日本、韓国などアジア圏で感染拡大があったことから、「アジアの国が封じ込めに失敗したせいで欧米に持ち込まれ、パンデミックになった」という被害者意識も根強くあるのかもしれません。