ESSEonineで暮らしのことをエッセイでつづってくれている作家・作詞家の高橋久美子さんは、旅好きの一面をもち、アジア、ヨーロッパ、北欧、アフリカ、そして日本各地まで、多くの地を旅してきました。そんな高橋さんの10年間の旅をエッセイにまとめた『

旅を栖とす

』(角川書店刊)が発売。今回は、高橋さんにコロナ禍で旅をできない今だからこそ考える「旅のこと」について教えてもらいました。

帽子をかぶった女性後ろに電車
バックパックで旅を楽しんできた高橋久美子さん
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高橋久美子さんが語る、たくさんの旅をしてきて感じてきたこと

世界に広がるコロナウィルスの影響で、多くの人がこの長い間、旅を断念してきたのではないでしょうか? 高橋久美子さんもその一人で、じっと自宅にこもることが多かった2020年にこれまでの旅行記をまとめる決意をしたそうです。旅を振り返って、今思うこととは?

●旅をするなら、その国に住む人の暮らしの中まで入ってみたい

――10年間にも及ぶ旅の記録ですが、訪れた国々のとてもディープなところにまで足を運び、現地の人との会話、そしてそこで感じたことまでかなり細かく書かれていることに驚きました。いわゆる“旅行”ではなく、バックパッカーとして、観光客は訪れないようなところまで足を運んでいますね。

高橋

 そうなんです。リゾート地みたいなところはほとんど行かないですね。リフレッシュする目的なら、日本の近場でもいいと思っていて。旅をするなら、「自分の新しいものを見る目を開きたい」っていう思いがあるんです。だから、私が行く旅はちょっとディープですね。どうせなら、その国に住む人の暮らしの中にお邪魔してみたいなあと。観光を超え、現地の人と同じ温度感でその街を歩いたり食べたりしたいから、なるべく路線バスに乗ったり食堂に行ったりしましたね。

女性2人
ベトナムにて。ザオ族の方のおうちに泊めてもらったとき

――そこでお腹を壊したりされたりした体験も書かれていました。

高橋

 屋台でもお腹は壊さない方なんですが何度かやらかしていますねえ。おいしすぎて食べすぎてっていうのもありましたけどね(笑)。言葉が通じないから場所を聞いても間違った場所を教えられたりもしましたね。でも慣れると意思疎通できてくるから不思議で楽しい。だからスマホも使わないんです。『地球の歩き方』を見るか、大きな駅で広域地図をもらって、郵便局と警察を教えてもらって、いざ迷ったらここに行けばいいと安全確認をして、旅がスタートします。

これって、日本にいては開かない目を開いてるってことだなぁって思います。普段はすごく腰が重いからどこにも行かないんですよ。ずっと家のコタツで文章を書いたり、本読んでいたりするのが好きなんです。東京にいるときは、コロナ前からこんな生活で(笑)。でも1、2年に一回、知らないところに行きたくて仕方なくなる。普段どこにも行かないから旅をすると反動がすごいんだと思います。行ったらしばらくは帰ってきません。

――現地の人と積極的にコミュニケーションを取っていますよね。

高橋

 旅でおもしろいものに出会ったら夢中になってしまうし、「この人すてきやなあ」って思ったら飲みに行ったり。カンボジアで出会ったトゥクトゥクのドライバーさんの生活を聞いたらなんとか力になりたいと「日本語教室をやろう」と言ってしまったり。若かったのもありますが、危なっかしいですね。猪突猛進なところがあるので、一緒に旅する妹に止められたりして。見当違いだったことも多くて、そのたびに打ちのめされるんですが、外を見ることで自分自身を見つめ直してきたんだなと思います。
だから、この本はただの旅の珍道中記ではなく成長物語なんだと書いていて思いました。