●だれが遺体を警察まで運ぶのか?

現場検証の次は遺体を警察に運び、「死体検案書」をつくってもらうことになります。死体検案書は医者でもらう「死亡診断書」と同じで、遺体の埋葬に必須の書類です。
ところが警察では遺体の運搬までは行わないので、自分で遺体を運んでほしいと言うのです。

「え、父を私が自分で運ぶんですか?」
「いやいや葬儀屋さんに頼むとやってくれます」

すると警察官は1枚の紙を出してきました。それは葬儀社の連絡先リストで、最寄りの葬儀社のリストが書かれていました。
なるほどそういう段取りなのか…。だとすればお葬式もそこに頼むのが自然でしょうし、実際そのままお葬式もお願いすることにしました。

●一人暮らしだった父の遺体は自宅には戻さず

警察官が帰ってから約1時間後、葬儀社が到着し、手際よく父の遺体を運び出しました。警察での検死が終わるのを待って、死体検案書と遺体を再びこちらに戻してくれるのだそう。ちなみに死体検案書の発行には手数料がかかりますが、これもいったん立て替えてくれるとのことでした。

しかし、ここで問題発生です。その後、遺体を戻すとなると、父の暮らしていた家になります。祭壇をつくって毎日お線香をあげるのはもちろん、なにより当時は真夏。遺体が腐敗しないよう、葬儀屋さんに毎日来てもらい、ドライアイスを入れ替える作業があります。
私はライター業なので時間の融通がきくとはいえ、私も仕事をしているので毎日その作業に同席するのは厳しいものがあります。

すると葬儀屋さん、まさに手をポンとたたかんばかりにおっしゃいました。
「そういう方へのサービスとして、ご遺体のお預かりもありますよ。弊社でご遺体を葬儀までお預かりするんです」

そんなサービスまで用意しているとは…葬儀社さんは頼りになります。ただでさえ父が自宅で亡くなり、わからないことばかりだった私には、葬儀屋さんというプロが来てくれ、安堵の気持ちでいっぱいでした。

父の遺体を乗せて走り去る葬儀社の車を見送り、ひと休みしたいところでしたが、もうひと仕事残っていました。そう、父の布団です。あの尿を吸い取った布団をなんとかしなくては…。真夏の暑さのなか、時間が経つと大変なことになるのは目に見えています。

●「自宅死」ならでは、父の住んでいた部屋の整理

布団を持つ様子
すべての画像を見る(全3枚)

父の寝室に戻ってベッドを確認すると、ぱっと見はわかりませんが、布団が湿っていました。出たものすべて吸い込んだというわけです。

窓をあけて、ゴム手袋をつけます。夏だったので幸いにもかけ布団は薄い肌がけのみ。ただ足元に大きな毛皮が敷かれており、持ち上げると絞れそうなほど濡れていました。

毛皮やシーツ、布団を二重にしたゴミ袋にぎゅうぎゅう押し込みます。すぐに7つ袋ができあがり、捨てる場所もないのでそのまま積み上げました。いくらか臭いはマシになったのでしょうか。

色々片づけて気づいたのは、父が寝ていたベッドは電動式で、レンタル番号や連絡先が書いてあったこと。もしこのベッドがレンタル品だったとしたら、こんなに尿を吸い込んでしまって返却できるのでしょうか? 小さなことですが、処理しなければならないことがどんどん積み上がり、ひとりで憂鬱になっていました。

時計を見ると午後1時前。すでにここに来てから3~4時間たっていました。とりあえず一回休憩をとることにして、姉にこれまでの経緯をLINEしました。

ところでヘルパーさんのお話で一番驚いたのは、父が若いときと変わらず、毎日晩酌をしていたことでした。50代で糖尿病になった父の飲酒を私はしばしばたしなめていたため、父は私には「飲んでいない」と言っていたのです。

父は支援の段階としては最も軽い「要支援1」の認定を取っていました。自分で歩け、車も運転していたので、介助よりヘルパーさんとの会話を心待ちにしていたようでした。寂しかったんだろうなと思ったものの、正直このときは、悲しみに暮れる余裕はありませんでした。

●離れて暮らす家族の孤独死でわかったこと

突然の家族の死は、わからないことが多く、バタバタと対応してしまいました。果たしてこの対応は正解だったのでしょうか。

・警察や救急車への電話は家族がするのが普通

この父の孤独死について大手葬儀社・公益社の1級葬祭ディレクター・安宅秀中さんに伺いました。ヘルパーさんなどを利用していた場合、警察や救急への通報は家族が行うのが多いとのことです。

「万が一体調不良の見逃しなどがあった場合、のちに係争になるのを防ぐ目的もあるんです。ご家族にとっては、第一発見者が通報してほしいところですが。また警察か救急かどちらを呼ぶのか迷う場合は、救急車を呼んでくださいね」(安宅さん)

・葬儀社は落ち着いてから探してもよい

もう一つは警察の対応について。警察の仕事は事件性がある・なしを判断することに絞られているため、遺族に対する説明は不十分なことが多いといいます。

「残念ながら、警察紹介の葬儀社が必ずしもよいとも限りません。緊急措置として検死と遺体の安置を依頼したのちに、落ち着いてから別の葬儀社を探しても問題ないですよ。葬儀社はプロなので、さまざまな相談に乗ってくれます」(安宅さん)

いざというときのために、知っておいたほうがよさそうですね。参考にしていただけると幸いです。

※ここで紹介した内容はあくまで一個人のケースになり、会社や地域によって当てはまらない場合もございます。

【長根典子さん】

1971年横浜生まれ。制作会社勤務、50代向けファッション通販誌副編集長などを経て、フリーランスライターに。1人息子とプラハへ移住するもコロナ禍で帰国。ビジネスや投資のほか、子育て、ライフスタイル、ファッションなどの分野でも執筆。著書に『

成長する組織をつくる目標管理

』(労務行政)、『

誰が司法を裁くのか

』(リーダーズノート新書)など。趣味は英語、FX、アート。