夫婦で希望すれば、結婚前の姓を名乗ることを選択できる「夫婦別姓制度」について、日本中で議論が沸き起こっています。11月に行われた早稲田大学の研究室と市民団体による合同調査の結果では、20~59才までの男女7000人をのうち約7割が賛成という結果が出ました。

ESSEonlineでも、20~40代の357人(平均年齢38歳)の結婚経験のある女性を対象に調査したところ、賛成派は約46%(165人)、反対派は10%(35人)、どちらとも言えないと答えた人は約44%(157人)。半数近くが賛成し、半数近くが迷っているという実態が見えてきました。
それぞれどのような考えなのか、改めて夫婦同姓から起こる切実な問題と、夫婦同姓ならではのよさを探っていきます。

婚姻届を書く女性と男性
現状の結婚はどちらかの姓を名乗ることになっています。ESSE読者の9割以上が夫の姓に。でも実際は変えたほうの苦労が大きかったと言います(※写真はイメージです。以下同)
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選択的夫婦別姓制度にESSEonline読者の賛成派は半数近くに。そこには改姓したことによる苦労が影響も…

「どちらとも言えない」と答えた人や反対派の半数以上は、「夫婦別姓」そのものには抵抗感を示したり、「自分だったら夫婦で同姓にする」としながらも、最終的には「別姓にしたい人はしたらいいし、したくない人はそのままでいいと思う」「個人が自由に選択でき、その選択が尊重される時代がいい」と、選択的夫婦別姓制度に理解を示しています。別姓を選ぶ人に配慮しつつも、結婚して夫の姓を名乗ってきたことや子育ての経験を通して生まれた、複雑な思いがあるようです。

まずは、夫婦別姓に賛成している人の意見から紹介していきましょう。

●改姓に伴う苦労は、離婚と再婚で2倍、3倍に

賛成派で多かった理由が、「選ぶ権利がある」「個人の自由だから」という声。そして、「自分の名前は人生そのもの。自分が納得のできる名前で生きていくべき」(38歳・主婦)といった、アイデンティティ保持を挙げる声もありました。
しかし、こうした声より圧倒的に多かったのが、結婚後の改姓によって苦労した経験にもとづく、切実な声でした。

実際、回答者の95%以上が結婚後に夫の姓に変わり、それによってプライベートでも仕事でも多くの犠牲を強いられていました。

まず、だれもが経験する苦労は、なんと言っても印鑑の買い替えに始まり、運転免許証などの身分証明書、金融機関など書類関係の変更手続き。多い人では、トータルで20か所以上の変更手続きを経験したそうです。

ハンコを持つ女性
あらゆる面倒な手続きを踏むのは姓を変えたほうで…

「時間と労力だけでなく、交通費や印鑑のつくり替え、変更手数料など、費用も想像以上にかかった。ただでさえ結婚後の物入りの時期に、なぜ女性だけが…と納得がいかなかった」(32歳・公務員)
「国家資格などの免許は特に手間と費用がかかった」(36歳・歯科衛生士)
「コロナ禍の持続化給付金の手続きで、確定申告時から姓が変わった事で、本人確認ができず何度もエラーに。事務局との10回近くのやり取りと複数の再申請を経て、ようやく給付金が下りたのは申請から数か月後。途中で何度も心が折れそうになりました…」(41歳・フリーランス)

●仕事をしていると名字を変えたことで周囲も混乱

これに加え、仕事をしている人は職場での混乱や戸惑いも大きかったようです。

「わざわざ『結婚して姓が変わりました』と取引先に一斉連絡するのは自意識過剰だと思うものの、電話で新しい名字を名乗ったら名乗ったで、『〇〇さん(旧姓)いますか?』『私です』からの説明が面倒で」(31歳・会社員)
「まず結婚して名前が変わることをみんなに報告しなければいけないのが嫌でした。独身の先輩方から嫌な顔をされたことも」(39歳・アルバイト)
「離婚後、再婚したので名前がころころ変わって本当に申し訳なかった」(34歳・教員)
「改姓するとメールアドレスまで変更しないとならなくて面倒でした」(38歳・会社員)

電話をする女性
職場で名字を変えたことで、あらゆる面倒な事態に…

「新しい名字で呼ぶ人と旧姓のまま呼ぶ人といて、電話がかかって来たときなど、ややこしかった」(45歳・会社員)
「福祉職なので、利用者さんへの周知が大変。未だに旧姓で呼ばれています」(30歳・フルタイム)
「異動前に通帳の名前などすべて変えないと、結婚祝金が出せないと言われた」(32歳・公務員)

…などなど、煩雑さに悩まされた人の声は枚挙にいとまがありません。

●改姓がキャリアの妨げになってしまう人も

煩雑さにとどまらず、キャリアに大きな支障をきたした人もいます。
その一つ、国家資格のキャリアコンサルタントで働いている方の声がこちら。

「業界でようやく著名な立場になれたのに、結婚して改姓してからは新聞や雑誌に名前が掲載されても気づいていただけないことが多く、キャリアが断絶したように感じました。旧姓のときに少しずつ積み上げてきた結果などが、改姓で一からのやり直し。名前を覚えて頂いてから仕事ができる営業や人事などの職種は、結婚によって名字を変更されると、非常に仕事に影響します」(27歳・会社員)

ほか、親から引き継いで数十年使ってきた名字を、あっさりと変えることに戸惑った人も少なくありません。名字を気に入っていて愛着がある人ほど、その喪失感は深いもの。加えて、その気持ちをパートナーに理解してもらえない辛さもあります。

封筒を持つ女性
「婚姻届を出してまもなく『旧姓の消失』の知らせが役所から届き、私の心も喪失感でいっぱいに…」(35歳・会社員)

「結婚して姓が変わるとき、今までの自分自身がなくなってしまうような、アイデンティティを否定されたような気持ちになりました。冗談で夫に『私の姓にならない?』と聞くと、即座に拒否。そのとき『私だって同じ気持ちなのにわかってもらえのないだろうか』と思ったことは今でも言えていません」(35歳・主婦)

「負担は平等になった方がよい」(42歳・主婦)という意見もありましたが、せめて結婚時に、夫が妻の旧姓喪失のつらさに共感する姿勢を示したり、改姓手続きにかかる費用や手間を半分でも負担してくれていれば、まだ不平等感は和らいだのかもしれません。

また、「姓が変更したことで、結婚・離婚の有無が周囲に分かったり詮索されたことがつらかった。とくに離婚した際、私だけでなく、子どもも名字が変わったことで辛い思いをさせてしまった」(41才・フリーランス)という声もあり、結婚による改姓は、場合によっては子どもを巻き込んでのダメージになりかねないようです。