新型コロナウイルスによる累計死者数が世界第4位と、大きな被害を受けたイタリア。
徐々に封鎖生活から抜け出して日常を取り戻しつつあり、6月30日時点では、新規感染者は140人程度になっています。
イタリア・ペルージャ在住の日本人女性は、今回のコロナ禍をどのように見たのでしょうか。現地からレポートしてもらいました。
イタリア人はじつは潔癖。コロナ禍の現地レポート
●イタリア人は家族を守るためなら一丸となって立ち向かう
まず、イタリアの感染者は北部に集中している。私の住んでいるペルージャは中部イタリアに位置するが、交通の要所から離れているせいか、ロックダウン中でも感染者は極めて少なかった。イタリアの戦々恐々としたニュースをテレビで見ていても、じつは実感がほとんどわかなかったほどだ。
ただいったん外へ足を踏み出すと警察や軍の車両が待機しており、一時は物々しい雰囲気を醸し出していた。
そんななかで私が恐れたのは人種差別だった。外見上中国人と変わらない日本人が差別を受けるのではないかという恐れが、正直なところあった。
実際、流行初期は中国人が経営するお店などは敬遠された。が、新型コロナが人種に関わらずその猛威を振い出すと、もはやイタリアは一丸となって脅威に立ち向かう形になった。
これはイタリアの地理的・歴史的背景が関係していると思う。イタリアはヨーロッパの最南端に位置しており、アフリカとの距離は海を隔ててわずか数百kmほど。
考え方はおおむねカトリック教にもとづき、多くの移民や難民をヨーロッパで最初に受け入れてきたことから、移民に対して寛容な土壌がある。もちろん移民に反対する政党もあるし、右傾化を危惧している人もいる。ただ、それを露骨に見せたりするほど極端なものはない。
また、ほかの西欧諸国に比べると、植民地支配の歴史が少ない。このため、一部の国の人々に対して優越感を見せつけたりすることもほとんどない。
イタリア人にとって大切なのは家族であり、それを守るためならとにかく一丸となって立ち向かう、これがイタリア人気質なのだ。
●一度始めてしまうと徹底的にやる国民性
意外かもしれないがイタリア人は潔癖な性格を持ち合わせている。その象徴が、イタリアの家庭やホテルでほぼ100%の割合で存在する、トイレの便器の横にあるビデという洗い場だ。このビデがあるのは、欧州では南フランスの一部を除きイタリアくらいのものだ。
一方で、彼らにとって個人の衛生観念と公衆の衛生観念とは対立しているようで、街を歩けばついポイ捨てをしてしまうことも多々だった。
ところが、この新型コロナウイルスという未知の恐怖に対してはさすがに別だった。
新型コロナ流行初期に一番最初に売りきれたものは消毒液であり、どこの薬局の前にも「消毒液売りきれ」の紙がはり出された。そして今やスーパー、リストランテ、公共交通機関などの入り口には消毒液と手袋が用意され、屋内では必ずマスクをする。
ロックダウン中の規制はかなり厳重であり、罰金も課せられた。外出は買い物や必要最低限の事象に限られ、運動に関しては自宅から200mの範囲で歩くことが許可されたものの、いずれの場合も外出許可申請書と身分証明書を常に携行しなければならなかった。がらんとした街並みに軍の車両やパトカーが巡回しており、近所の散歩でありながら、とてもリラックスした感じにはなれなかった。
また、現在でもクラスターが発生したときを想定して、美容院で髪を切る場合は連絡先を残さないといけないなどの制約がある。イタリア人は一度始めるとかなり徹底してしまうのだ。
●これからが正念場
現在ようやく回復の兆しを見せ始めた一方で、ローマでは集団感染が数件報告され、6月19日の保健省の報告によると一部の地域にあっては感染者が増加傾向にある。しかし、イタリア人はもっと恐ろしい状況を毎日のように見てきたこともあり、もはやこれしきの軽微な増加をものともしないように見える。
それは夏の到来を受けて、人々の口から徐々に、バカンスをどこで過ごすかが話題に登るようになったことからも窺える。ただ、彼らの頭の片隅にはいつも新型コロナの残した爪痕が残されているし、秋以降に予想される第2波への懸念も払拭されていない。
また、ロックダウンによって、イタリアがコロナ禍以前から抱えている南北の経済格差がさらに広がることも予想される。
ちなみに、ロックダウンが2か月以上続いたイタリアだが、所得補償は収入が減少した事業主に限られており、一律に支給されるものはない。しかし、交通の代替として自転車や電動キックボードなどを購入した場合、環境省から補助が出る。イタリアでは電気自動車や電動ペダル付き自転車のシェアリングは以前からあったが、今回公共交通機関の座席数に制限が設けられたことにより市民の移動に別の手段が必要になってきたことが、この動きを加速させることになった。
ペルージャは丘の上の街であり坂道が多く、以前は自転車をお見かけすることはほとんどなかった。ところがここ最近、その姿が明らかに目立つ。
まだ買ったばかりとも思える自転車やキックボードにまたがり、ロックダウン中の運動不足を解消すべく一所懸命に急坂をあがっていく姿は、これからのイタリアをつい重ねて見てしまう。
イタリアにとっては、これからが対・新型コロナウイルスの正念場なのかもしれない。
【京子さん】
東京都出身。フランス語を習得しフランスへの移住を夢見るものの、ひょんなことからイタリア・ペルージャに移住。イタリアの食文化に感銘を受けながらも、海外から見た日本文化や和食に魅せられ「
Oriental Kitchen Perugia」を立ち上げる。和食イベントをとおし、現地のイタリア人に広く正しく認知してもらえるよう活動を広げている