夫婦が別居や離婚をしたとき、夫婦のうち収入の少ない方がもらえるお金には、二種類あります。一つは、離婚後に子どもを育てる親が別居親から受け取る「養育費」。もう一つは、離婚前の別居期間中に受け取れる、「婚姻費用」と呼ばれる養育費込みの生活費。どちらも、一般的には、収入の多い方から収入の低い方に支払う義務があります。

この養育費と婚姻費用を決める際に目安となるのが、家庭裁判所で公開されている「養育費・婚姻費用算定表」です。2003年(平成15年)に発表されて以来、費用の取り決めに使われるようになりました。じつはこの算定表が、この度17年ぶりに改定され、来る12月23日に最高裁判所のHPに公開されます。

現在、DV夫から子を連れて避難し別居しているAさん(39歳・パート)も、この一報に期待を寄せています。なぜなら、新算定表は、「現在の額より少しは金額がUPする可能性がある」と、相談に行った弁護士から言われたからです。詳しく話を聞きました。

インタビューをうける女性
「子どもと2人になり大変な面もありますが、夫と暮らしていたときよりもはるかに幸せです」(Aさん)
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普段は大人しくてマジメな夫が豹変。耐えきれず離婚の申し立てへ

Aさんは、夫から突発的に受けるDVなどに悩まされ、今年7月、間もなく4歳になる子を連れて別居しました。行動に移すまでに2年半かかり、その間は、離婚すべきか随分悩んだと話します。

「夫は堅めの企業に勤めるサラリーマンで、普段はとても大人しくてマジメ。だれに対しても敬語で丁寧に話し、『折り目正しい』といった表現がぴったり。ところが、ふとした拍子に人が豹変するんです。たとえば、盆と正月の帰省でどちらの実家に行くかを決めるとき、私が相手の実家より自分の実家に行きたいと言おうものなら、『だれのお金で帰省すると思ってるんだ』と、カネにモノを言わせる発言をしたり、私の家族を見下したり。それに反論すると、大声で怒鳴って突き飛ばされることもありました」

大企業に勤める夫とAさんの収入差は、約250万円で、夫婦で2倍以上の経済格差がありました。夫はそれをいいことに、自分の方が高収入であることをことあるごとにちらつかせ、支配しようとしてきました。Aさんが抵抗すると激昂し、ときには身体的暴力も行使。さらに、夫曰く「たかがそれくらいの」給与を家計に入れるよう命じることも。

倒れる女性と拳を握る男性
※写真はイメージです

次第にAさんは、なにかのはずみで夫に罵られたりするのを恐れ、直接的会話を避ける「家庭内別居」にシフト。このまま熟年離婚まで我慢しようかと思っていましたが、夫の心ない発言に耐えられず、また夫婦仲が悪いことへの子への影響を考え、弁護士やDV支援センターに相談の末、ついに別居に踏みきりました。

●まさか夫の言動がDVだと思わず…

Aさんは、こう振り返ります。

「まさか、あの夫からの言動がDVに当たるとは夢にも思ってもいませんでした。それだけに、弁護士さんや相談員から『それはれっきとしたDVですよ』と断定され、避難のための別居もすすめられたことに驚きました。同時に、味方となりアドバイスをくれる人たちがいて、とても心強かったです」

Aさんは避難別居して一週間後、弁護士の助言に従い、「離婚調停」と「婚姻費用分担請求」、2つの調停を同時に申し立てました。裁判所の夏休み前に申し立てたため、第一回目の調停が始まったのは今年の9月。離婚と婚姻費用請求の2種類が1セットになった形で調停がスタートしました。

調停は、DV案件であることから、夫婦が顔を合わせることのないよう、待合室は別フロアに配置してもらい、調停室に入る際にも、夫が待合室に入ったのを調停委員がたしかめてから呼びに来てくれるなど、きめ細かな配慮がなされました。もちろん、別居後は夫からの電話やSNSなど受信できない設定にして、夫婦間では一切、直接的連絡を取っていません。

●夫は離婚に応じる気なし、婚姻費用も夫のゴリ押しで最低額に

調停では、夫はDVを否定し、離婚も不承諾。しかし、婚姻費用は支払い義務があるため、双方の給与の源泉徴収票を提出の上、2回目の調停で婚姻費用が決まりました。そのときに使われたのが、冒頭に述べた「算定表」です。

夫の収入は約500万円、Aさんの収入は約250万円。双方の収入額を算定表に照らし合わせると、夫がAさんに支払う婚姻費用は「6~8万円」の範囲のちょうど真ん中に位置する7万円」だと分かりました。そこで、夫側はその範囲の最下限の「6万円」を主張し、気の弱いAさんは、調停委員に「あの夫にはこれ以上上げることはないから」と促され、最下限の「6万円」に決まってしまいました。

Aさんは、「婚姻費用がもらえるだけでとてもありがたいことですが、もし将来的に離婚調停が進んだら、養育費は適正な額をもらいたいです」とため息をつく。