50歳の漫画家・古泉智浩さん。古泉さん夫婦と母(おばあちゃん)、里子から養子縁組した長男・うーちゃん、里子の長女という家族5人で暮らしています。
今回はこの連載ができあがるまでの隠れた苦労についてお話ししてもらいました。
最新のシステムでマンガを描くも、慣れずに苦戦中の古泉さんです!
普段、マンガを描くときにパソコンは欠かせません。
最初に紙に人物と背景を描いて、それをスキャナーで取り込んだのち、仕上げをパソコンで行います。「慣れていて作業が早いから」という理由で古いパソコン、ソフトを使っているので、いつ不調を起こしてもまったく不思議でなく、常にひやひやしています。
枚数の多い作業はその古いシステムで行っていて、この連載はクリップスタジオという最新のソフトとシステム、液晶タブレットモニターを用いて行っております。まだ慣れていなくて作業は倍の時間がかかりますが、いつかこのシステムに完全に移行できるようにしたいと思っています。
●最新のシステムでうーちゃんもお絵かき
すべての画像を見る(全5枚)「パソコンでお絵かきする!」
夕食後、うーちゃんが言いました。最近、ぼくが仕事で使用しているパソコンでお絵かきをするのがブームです。画面には、四コマ漫画用のコマ割りで、左右に2列、四つのコマが縦に並んでいます。うーちゃんは僕の膝に座って、液晶タブレット用のペンを握って、その左上から順番に絵を描いていきます。
うーちゃんはペンの持ち方が変で、ペンの上の方をグーで親指と人差し指の間に挟むように持っていて、それでは狙いが安定しません。
「こうやって持ってごらん」
正しい持ち方に矯正するのですが、すぐに元に戻ってしまいます。しかし、ペン先の太さを選ぶときや色を変更するときに、画面上の狙い通りの場所をタッチできません。
「だから、ちゃんと持てば狙い通りにタッチできるのに」
何度も言っているうちにようやく正しい持ち方の意味が理解できたようで、操作に応じて持ち直すようになりました。お絵かきのときは、元の不安定な持ち方でささっ、ささっといった感じでペンを画面に走らせます。
「パパ、シンカリオン描いて」シンカリオンはとても複雑な形のロボットなので、慎重に描かないといけません。うーちゃんは気分のおもむくままに色を選び、「線路だよ」「こういう形の線路あるでしょ」と言いながらペンを走らせます。
ぼくはシンカリオンやドクターイエローを、なにしろうーちゃんのお手本となるように、自分の漫画以上に慎重に気合を入れて描かねばならず、とても疲れます。なかでも難しかったのは、うーちゃんが組み立てたブロックのロボットです。あまりに形が複雑で気が遠くなりました。
<うーちゃんの作品>「むしがいっぱいえさをもらってるところ」と書いたのはうーちゃんに注文されたぼくです。
<古泉さんの作品>「シンカリオン E5はやぶさ」です。
うーちゃんはぐるぐるした絵ばかりを描いていたのですが、最近、四角や丸などの図形も描けるようになってきました。
そうしてふたりで完成させた作品は15作になるのですが、次の作品が一向にできあがりません。それはクリップスタジオの左手用コントローラーをうーちゃんが、いじるようになったせいです。
作業を間違えた際にそのボタンを押すとその作業の前の状態に戻すことができるのですが、「さあ、これで完成だ」と思うとうーちゃんがそのボタンを何度も押してしまい、どんどん作業をさかのぼり、そしてとうとう手つかずの白い画面にまで戻ってしまいます。
その戻っていく様子がおもしろいようで、描いても描いても戻してしまい一向に作品が完成しないのです。そうして16作目はいつまで経っても完成しないまま、というわけでした。
【古泉智浩さん】
漫画家。1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。里子を受け入れて生活する日々をつづったエッセイ
『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』、その里子と特別養子縁組制度をめぐるエピソードをまとめたコミックエッセイ
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』など著書多数。古泉さんの最新情報はツイッター(
@koizumi69)をチェック!