52歳の漫画家・古泉智浩さん。古泉さん夫婦と母(おばあちゃん)、里子から養子縁組した7歳の長男・うーちゃん、里子の3歳の長女・ぽん子ちゃんという家族5人で暮らしています。
今回は、欲張りなぽん子ちゃんのお話です。
ピーナッツにプチトマト、リンゴ。ぽん子ちゃんの食欲が止まりません
3歳の里子のぽん子ちゃんはひどい欲張りです。僕がピーナッツを袋からお皿にあけて食べていると、鋭く様子を察知して
「なにたべてるの?」
と近寄って来ます。
「ピーナッツだよ、ぽん子ちゃんも食べる?」
「うん」
すると、ぽん子ちゃんは、お皿を自分の前に引き寄せます。
「パパはたべちゃダメだよ」
「なに言ってんだい、パパが食べてたんだよ」
「ダメ!」
完全に独り占めするつもりです。
「一緒に食べようよ」
「ぽんこちゃんの!」
「パパのだよ。パパがぽん子ちゃんに分けてあげるって言ってんの」
テレビに気を取られている隙に、お皿からピーナツをそっとつまんで食べます。
「ダメー! パパはたべちゃダメっていってるの!」
正に、「軒を貸して母屋を取られる」のたとえ通りです。
しかし、そんな様子で独り占めしたピーナツを全部食べるかと言えば、そうではなくてすぐに飽きて大量に残します。
そうして残したものを僕が食べるわけです。
●リンゴを独り占め!3切れ同時持ち
リンゴや梨も大好きで、おばあちゃんがキッチンで切っていると、もう待ちきれずに足元にまとわりついて皮をむくのを心待ちしています。
「ぽんこちゃん、ぜんぶがいい」
あまり「全部」の意味が分からないのですが、「たくさん」や本当に「全部」という意味を混在させて使用しています。
おばあちゃんが四等分したリンゴを更に薄く切ってぽん子ちゃんに手渡そうとすると
「ぜんぶがいいっていったでしょ!」
と怒り出しました。
「4等分した状態で切らずにそのまま」という意味の「ぜんぶ」だったようです。
「もーぽんこちゃんリンゴいらない!」
ちょっと切っただけなのに大変な怒りようです。
それで本当にいらないのかと言えばそうではなく、
「やっぱりたべる」
すぐに気を直して口にリンゴをくわえて、両手に一切れずつ持ちます。合計3切れ同時持ちです。
「一つ食べ終わってから、もう一つ持ちなさい」
などと言いますが、まったく意に介しません。
さらに、お皿に切り分けたリンゴを載せてテーブルの真ん中に置くと、自分の前に引き寄せて独り占めしようとします。
●ママのプチトマトを狙うぽん子ちゃん
プチトマトも大好きで、口に3個パクパクと頬張り、両手に1個ずつ持ちます。口に頬張りすぎて唇が閉じず、トマトを噛むごとに汁がポタポタと服に垂れます。
自分のお皿に取り分けた分のプチトマトはさっさと食べ終えて、まだ料理の途中で手をつけることができないママのお皿のトマトを狙います。
気がつくと4個か5個ずつ載せられていたお皿に、1個か0になっていることなどしょっちゅうです。
対策として「食べ始める直前まで盛らない」が為されるようになりました。
●自分のものにならないのなら、なくなればいい!悪に目覚めるぽん子
そんな調子で夕方、保育園から戻るとおやつを目いっぱい食べてしまいます。その日の夕食はママがラーメンをつくってくれましたが、おやつを食べすぎたせいか全然手をつけません。
「ぽん子ちゃん、食べないんだったらパパが食べるよ。いいの?」
麺が伸びてしまったらおいしくないので、僕が自分の分を食べ終えて、けっこうお腹がいっぱいでしたが、捨てるに忍びなくぽん子ちゃんの分を食べることにしました。
「いいよ」
そうして器を手に取って食べようとしていると、ぽんこちゃんが近づいて来て、僕が手にしている器を蹴り上げました。ラーメンの汁が跳ねて、僕のズボンを濡らしました。
「こら! なんてことすんの。お行儀悪いぞ」
お行儀悪いレベルの話でなく、悪事に近い所業です。
ぽん子ちゃんをしっかり叱りましたが、スルスルと僕に近づき迷いなく器を蹴り上げる動作は一切のよどみがなく、蹴り上げた足の高さ、まっすぐな足が美しくて叱りながらもほれぼれとしてしまいました。
自分のラーメンを自分では食べるつもりがないのに、人に食べられることは見ていられないという、意地汚さが、美しい動作を更に引き立てているような悪の魅力を放っていました。
ただ、なんに対しても意欲的なのはすばらしいことです。
【古泉智浩さん】
漫画家。1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。里子を受け入れて生活する日々をつづったエッセイ『
うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』、その里子と特別養子縁組制度をめぐるエピソードをまとめたコミックエッセイ『
うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』など著書多数。古泉さんの最新情報はツイッター(
@koizumi69)をチェック!