秋を感じさせる装いでESSE10月号の表紙を飾ってくれたのは、結婚以来、初となる主演映画『総理の夫』で、理想に向かってまっすぐに突き進む女性総理大臣を演じている中谷美紀さん。役を演じる中で感じたこと、オーストリアと日本を行き来する今の暮らしの様子など、オンオフの充実ぶりが伝わってきました。

顎に手を置く女性
中谷美紀さん
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中谷美紀さんインタビュー

3年前にドイツ出身のビオラ奏者、ティロ・フェヒナーさんと結婚して以来、日本とオーストリアを行き来する生活を送っている中谷美紀さん。
「この取材が終わったら、ちょうどオーストリアへ戻るところなんです。帰ったらすぐに庭の草むしりを始めないと!」と楽しそうに話してくれました。

「最近は日本から少しずつ器をもち込んでいます。今までは夫が持っていた器を使っていたので、ようやく自分の気に入ったものと交換できるのがうれしいですね」

●食材の違いに苦心しつつ料理を楽しんでいます

オーストリアでは、手に入る食材の違いに苦心しつつも、「いかに短い時間でおいしいものをつくるか」にチャレンジしているそう。

「日本のように、薄切り肉やこま切れ肉が手に入らないんです。お店で薄切りをお願いしても5mmくらいの厚さになってしまって(笑)。代わりに、かたまり肉の筋を切ったり、塩麹に漬けたりと、様々な工夫を試しています」

日本の食材も人気で現地のスーパーにひととおりそろっていますが、食べ慣れたみそやしょうゆ、みりん、魚醤、干しシイタケなどは日本から持ちこんでいるのだそう。

「とくにおいしいのりは貴重なので、豊洲の林屋さんのものを大事に食べています(笑)。そうそう、湖で獲れたマスやイワナを軽くスモークしたものがあって。それをのりでくるんで、キュウリやスプラウトと一緒に食べるのにハマっています。手巻きずしのお米がないバージョン、のような感じですね」

●演じた女性総理・凛子は自分の理想を追い続ける人

腰に手を置く女性

そんな中谷さんにとって、結婚後初めての主演映画となるのが、日本初の女性総理大臣・相馬凛子を演じている『総理の夫』です。

「凛子の魅力は、私利私欲のためではなく、本当に国民のために人生を捧げていて、自分の掲げた理念をぶれることなく追い続けているところ。ただヒステリックに主義主張を述べるのではなく、人々に伝わる言葉で冷静にスピーチする凛子の姿は、世界の女性リーダーたちも参考にしました」

●映画が掲げる理想が本当に実現したらいいな、と願っています

凛子の夫で、日本初の“ファーストジェントルマン”となる日和を演じるのは田中圭さん。自身は政界とは無縁ながらも、献身的に愛する妻を支える日和は、かなえたい夢をもつ女性にとっては、理想の夫と言えそうですが…。

「働く女性からみると理想の夫ですよね。夫婦の形はそれぞれですがすべての夫婦にとって凛子と日和の関係が正解なのかと問われると悩ましいところ。ふたりの関係は、旧来の私たちに課せられた男女の役割が逆転しただけとも言えるので。

『日和くんに迷惑ばかりかけていた』という凛子のせりふがあるように、女性の活躍の裏で男性が犠牲になってしまう形が望ましいわけではないと、さりげなく伝えられたらいいなと思います」

そうした役割分担の難しさも含めて、自分のやりたいことと家庭との両立は、女性にとっては永遠のテーマかもしれません。

「私の場合は、仕事へ送り出してもらえる恵まれた環境にいますが、実際にお子さんがいる方が働きながらやりたいことを続けるのは本当に大変だろうと思います。預ける場所もなく、育児も介護も担って…となると、女性は身をすり減らすしかありませんよね。この映画が掲げる理想が本当に実現したらいいな、と願っています」

●結婚を機に、仕事との向き合い方にも変化が

かつては仕事に打ち込むため、生活をないがしろにしていた時期もあったと話す中谷さん。結婚を機にオフの時間も大切にするようになってからは、仕事との向き合い方にも変化があったそう。

「あちらにいると草むしりをしているだけでも楽しくて、あっという間に時間がたつんです。『これって、ほかになにもいらないんじゃない?』と思えるほど。ささやかなことで心の充足を得られているので仕事にしがみつく必要もなく、だからこそ心から楽しんで仕事ができているのかもしれません」

そうした満ちたりた時間が、スクリーンの中谷さんを、よりすてきに輝かせているのでしょう。


【中谷美紀さん】

1976年、東京都生まれ。1993年に女優デビュー。近年の出演作にドラマ『ハル~総合商社の女~』『病室で念仏を唱えないでください』、Netflix配信ドラマ『Followers』など。オーストリアでの日常をつづったエッセイ『オーストリア滞在記』(幻冬舎文庫刊)も話題に。主演映画『総理の夫』が9月23日より公開