シンプルで低コスト、しかも使いやすい。そんな欲張りのキッチンをつくりたい人は必見の実例を紹介します。こちらのキッチンのは、一級建築士・乙坂孝さんのお住まいのもの。団地をリノベーションして生まれたキッチンには、使いやすさを実現するためのヒントが詰まっていました。
すべての画像を見る(全15枚)つり戸棚はなし、引き出しも最小限に。使いやすいミニマルなキッチン
掃除のしやすさを優先して2口のIH調理器を採用。シンクはあえて大きいものを選び、普段は水切りカゴをセットして使用することで、作業スペースをしっかり確保しています。
キッチンの上段以外と作業台はリビング側から見えないので、オープン収納に。
とにかく作業スペースにものを置かないのが乙坂さん流。調味料や調理道具はハーフェレのステンレス製バー&ラックのつり下げ収納を活用。
キッチンカウンターを仕事スペースへの動線上に設けたため、スツールは座面が小さく場所を取らない、石巻工房の「フラミンゴ」を2脚並べました。
複数棟からなる大型団地の一室をリノベーションして、自宅兼事務所としている乙坂さん。もともとは団地の間取りにありがちな、小さく間仕切られた和室3室とダイニングキッチンの3DKでしたが、キッチン空間を家の中心に据えて、寝室、仕事スペース、LDK、水回りを必要なときだけ建具で仕切る回遊型の間取りに大改造。
「余計なものはなるべくなくし、極力シンプルにしました」というキッチンは、白と明るい色合いの木材を基調にまとめられ、すがすがしさが感じられる空間に。レンジフードは壁面にしっくり馴染むよう白のシンプルなデザインを選びました。
つり戸棚はつけず、調理道具や器などはすべてキッチンの収納棚とステンレスバー、キッチンよりも8㎝ほど高く設計した作業台に収納。この作業台はリビングからキッチンが丸見えにならないための目隠しの役割も果たしています。
キッチンや作業台には極力扉をつけずオープンにすることで、出し入れしやすく、かつコストダウンにもつながりました。調理家電やゴミ箱のサイズをすべて測っておき、それに合わせてキッチン下の収納部分や作業台のオープン棚を設計したので、デッドスペースがなく、収納スペースをたっぷりと確保できています。
「限られたスペースの中でも、なるべく作業スペースを広く取りたかったので、IH調理器は2口のコンパクトなものに。水切りカゴを置かずにすむように、シンクの内側に設置するプランにしました」
また、キッチンの天板についじか置きしてしまいがちな調味料は、壁面のバーに取りつけたラックに並べ、タテの空間を有効活用。調理に欠かせないまな板も、シンクの内側の段差にセットして使えるようオリジナルで製作しました。
また、コの字型キッチンの一辺には、カウンターを設置。普段の食事はここを利用しています。
「食事の場所でもありますが、読書をしたり、PC作業をしたりと、食事以外の時間もここで過ごすことが多いですね。カウンターがなかったら、キッチンは調理するだけの場所になっていたと思います。カウンターをつけて多様な使い方ができるようにしたことで、家の中のひとつの居場所になっていると思っています」
乙坂さんの得意料理拝見!
鶏肉と油あげ、エノキ、シメジ、ニンジンが入った具だくさんの炊き込みご飯。よく混ぜて具とご飯をなじませたらでき上がり。
器に盛りつけたら、小ネギを散らして完成。
My Favorite Kitchen Item!
10年以上愛用しているピーラーは、イタリアのインテリアブランドCOVO社のもの。
ヒノキのまな板は、シンクにぴったりセットして使えるようにつくったオリジナル。
口当たりがいい「うすはりグラス」は、大好きな日本酒を飲むときに欠かせないアイテム。
銅のにぶい光沢が気に入っているカリタのコーヒードリッパー。経年変化も楽しみのひとつ。
友人に誘われた陶芸教室でつくった大皿と茶碗。手に持ったときの重量感も心地がいい。
乙坂邸DATA
住所/千葉県千葉市
家族構成/本人:40代
専有面積/49.00㎡
竣工/2020年9月
●乙坂 孝さん/建築家
fuse-atelierなどの設計事務所を経て「otosaka architects 一級建築士事務所」を設立。戸建て住宅やマンションのリノベーション、店舗、造園まで幅広く手がけている