リモートワークの普及で、「家族と過ごす時間が増えた」とのポジティブな受け取り方がある半面、食事の用意や片づけなど「家事が増え、それが負担になっている」との声も多く聞かれるようになりました。これを受けてハウスメーカー各社は、仕事と家事を両立するため、この時代に合ったさまざまなプランを提案しています。そこで、各ハウスメーカーに、リモートワークや家事効率にまつわる悩みごとの解決策や、こうした悩みに対応した自社商品について聞いていました。話を伺ったのは、河崎由美子さん(積水ハウス 住生活研究所長)、多田綾子さん(大和ハウス工業 住宅事業本部事業統括部 企画・販促グループ上席主任)、根本由美さん(旭化成ホームズ くらしノベーション研究所主任研究員)です。
仕事と家事のバランスのとりかたについて
すべての画像を見る(全18枚)今、住まいは仕事をする場であり、同時に家事をこなす場でもあります。こうした状況でふたつを両立させるには、家事の時間配分やタイミング、家族間の家事分担など、うまくバランスを取ることが必要です。
Q. 仕事をしながら合間に家事もしちゃうけどいいのかしら?
A. 「ライフワークミックス」で仕事と家事をバランスよくこなそう
リモートワークの際、家事と完全に切り離して考えるのは難しいもの。仕事の合間に米をとぐ、洗濯物を干すなどの家事が5分、10分と差し込まれることが多いといいます。仕事に集中できていないようにも思われますが、「これはライフワークミックスといい、両方をうまくこなすポイントになっています」と河崎さん。座りっぱなしでなく立って移動し、体を動かすことも必要。程よくミックスするのは気分転換も図れ、結果効率アップにつながります。
Q. 仕事をしながら合間に家事もしちゃうけどいいのかしら?
A. 増えた「名もなき家事」。ひとりに任せず家族でシェア
コロナ禍による在宅ワークなどの生活様式の変化で、これまでもあった「名もなき家事」(※)に、「帰宅時の手洗い・うがいの呼びかけ」「マスクや消毒液の残量の確認・購入」などが新たに加わりました。これは大和ハウス工業が行った実態調査結果で、じつはこれらが家事負担のひとつになっているといいます。「だれかひとりではなく、家族で家事をシェアすること。協力し合えるプランの工夫が大切です」(多田さん)。
【コロナ禍で生まれた名もなき家事(※)】
1位 帰宅時に必ず手洗い・うがいを家族に呼びかける
2位 マスクや消毒液の残量の確認・購入
3位 ティッシュやトイレットペーパーの残量の確認・購入
※料理、洗濯、掃除以外の生活の中に忍び込んでいる細かな家事。不要なDM・チラシを捨てる、買ってきたものをしまう、たまったゴミを集めるなどがあります。「名もなき家事」は大和ハウス工業の商標登録です
距離感を考えたワークスペースをつくろう
仕事をしながらその合間に家事をこなすのは、結果的に効率アップにつながることがわかりました。ではその場合、適切な距離感はあるのでしょうか? 家事だけでなく、家族の距離感も含めてアドバイスしてもらいました。
Q. 家事にも家族にも気を配れるワークスペースが欲しい!
A. 家事をこなしやすい位置に配置し、集中したいときは扉を閉じて
仕事や暮らし方に合わせて、「オープンスタイル」「セミオープンスタイル」「プライベートスタイル」の3つのワークスペースを提案する旭化成ホームズ。なかでも、仕事の合間の家事や家族との会話をしやすくするのが「セミオープンスタイル」です。「キッチンとの行き来が容易で、ながら家事がしやすく、リビングにいる家族の気配も室内窓から感じることができます。扉を閉めれば集中でき、音も気になりにくくなります」(根本さん)。
Q. 仕事だけでなく多目的に使用したい!
A. 仕事が終わったあとは家事スペースにもなります
室内窓でリビングと仕切った、大和ハウス工業の「つながりワークピット」は、家族と緩くつながるセミクローズドな空間。キッチン・ダイニングとも程よい距離で仕事と家事が両立しやすくなっています。さらに、仕事が終わったあとは家事スペースとして活用できるのが「つながりワークピット」の特徴。「奥行き60㎝の作業台はアイロンがけなどもしやすく、家計簿をつけたり、レシピを検索したりと多目的に使用できます」(多田さん)。
室内窓はカウンターより上に設け、仕事に集中できるように。立てば家族の様子が分かります。
長めのカウンターなので、一時的に洗濯物を置いていてもじゃまになりません。
Q. 仕事中に話しかけてくる子ども、どうしたらいい?
A. 親は窓側に向かって仕事に集中。リビングにいる子どもは親の姿が見えて安心
小さな子どもがいる家庭では、仕事中に子どもが視界に入るとその様子が気になってしまうもの。また、子どもも仕事中の親に話しかけてくることが多くあるようです。そんな場合は、親からは目に入らないけれど子どもからは見える位置にワークスペースを配置しましょう。「リビングと仕切る室内窓が有効です。ポイントは背中側に室内窓がくるようにすること。親は集中でき、子どもは親の姿が見えることで安心します」(河崎さん)。
家事効率を上げる動線・ゾーニングについて
片づけ、料理、洗濯などの家事に家族が参加できるようにするには、動線やゾーニングを含めたプランが肝心。各社は様々な角度から、気構えることなく自然に家事を行えるプランを提案しています。
Q. 夫や子どものものでリビングが散らかりがち…
A. 玄関そばに身支度や着替えができるスペースを
帰宅後は、玄関そばの「チェンジングルーム」(積水ハウス)内の手洗器で手を洗い、部屋着に着替えてリビングへ。「すると、上着、カバン、子どものお稽古バッグなどがリビングに持ち込まれないので、リビングがそれらで散らかる心配がありません。また、外出用の小物などもまとめて用意しておけるので、出かける際もスムーズです」(河崎さん)。さらに、花粉やウイルスなどを部屋に入れないことで清潔な室内を保てます。
Q. 家族みんなが進んで片づけをしてほしい
A. 動線上に収納を設け、自分のものは自分で管理
大和ハウス工業の「家事シェアハウス」は、「自分のことは自分でできる仕組み」を取り入れた住まい。自分の持ち物を各自が管理して、ものが見つからないといったことをなくし、きちんとしまう場所があることで部屋の散らかりを防ぎます。そして帰宅後の動線に着目。「靴や鞄をしまって手を洗い、部屋着に着替えてリビングへ入るまでの行動を、順を追って動線上に配置。小さな子どもも無理なく行える“仕組み”となっており、清潔な暮らしが習慣化できます」(多田さん)。
①自分専用カタヅケロッカー
玄関そばに個々のロッカーを設けることで、上着やスリッパ、家の鍵など毎日使うものを収納し片づけの意識を高めます。
②ファミリーユーティリティ
帰宅後手を洗い、着替えをする空間。その日着たシャツや靴下はそのまま洗濯カゴへ。リビングへの持ち込みを防ぎます。
③キッチン横マルチスペース
料理本やタブレットを置いたり、カウンター下にはゴミ箱を収めたりできるマルチスペース。散らかりがちなキッチンを整えてくれます。
④お便り紙蔵庫
ダイレクトメールや学校からのプリントなどは、つい冷蔵庫に貼ってしまいがち。それらを整理し見やすくするのが「お便り紙蔵庫」です。壁内に設けた奥行きの浅い収納だから開ければひと目で確認でき、来客時には扉を閉めて隠すこともできます。扉の裏も利用可能。プリントなどはそのまま貼っておけるので、家族で情報を共有できます。右は扉を閉めた様子。
⑤自分専用ボックス
ものの置きっ放しを防ぐリビング内のボックス。ラベルに各自の名前を書いて貼るのがポイント。
Q. 食事の用意を家族に手伝ってほしい
A. 複数で立てるようにセパレートタイプのキッチンに
食事づくりは毎日のこと。家族に手伝ってもらえたら日々の負担も軽くなるはず。「キッチンに立つのは料理をしない人にとって大変なことです。そうした人が自然に参加できるようにするには場の力も必要なのです」と河崎さん。それには、複数でキッチンに立てるセパレートタイプがおすすめとのこと。「L字型やコの字型、II列型とし、台が分かれていることでそれぞれが立つ場所を確保でき、作業もしやすくなります」。
Q. 気づいたときにサッと掃除ができるようにしたい
A. 掃除用具専用の収納を各階に設置
「掃除をしよう、一気に片づけよう」と気合を入れて掃除を始めるよりも、汚れに気づいたときにサッと掃除をするほうが自然な流れでストレスなく掃除ができるといいます。それを促してくれるのが、積水ハウスの掃除用具専用の「ポケット収納」です。「ロッカーのように扉をつけて、掃除機、モップ、洗剤など掃除関連の道具だけをしまいます。幅は30~40㎝ほどの省スペースでOK」(河崎さん)。できれば各階に設置するのが理想です。
Q. リモート会議中に宅配便が来たらどうしよう…
A. 外から入れる防犯管理万全のスマートクロークで仕事に集中!
在宅時間が長くなったことでストックする食料・日用品が増え、それにともない宅配便の利用頻度も上がりました。そこで、リモート会議中や不在時にも、スムーズに荷物を受け取れる大型ストックスペース「スマートクローク」が旭化成ホームズより登場。「スマホアプリで発行した時限キーで、外部から配送物を運び入れることができます。内部には防犯カメラがあり、内側からは施錠しているため安心です」(根本さん)。
Q. 洗濯って干したり、畳んだり、しまったりが大変!
A. 作業場所を1か所にまとめて、動線を短く
旭化成ホームズの「ランドリーサンルーム」は、洗う・干す・畳む・しまうといった洗濯関連の作業が1室で行える空間です。1室にまとめることで動線が短くなり、おのずと家事の時短にも。「室内干しスペースもあるため、時間を気にせずいつでも干せて、急な雨などにも慌てずに対応できるのもメリットです」(根本さん)。
積水ハウスが提案するのは、2階の洗濯室とそのそばに設けた畳敷きの家事コーナー。「2階に洗濯機があればそのままバルコニーに干せますし、取り込んだら畳の上で洗濯物を畳めます。家事コーナーは子どもと翌日の洋服のコーディネートを考えたりするコミュニーションの場としても活用できますよ」(河崎さん)。
取材協力/旭化成ホームズ、積水ハウス、大和ハウス工業
イラスト/鈴木衣津子