コンパクトなのに、なぜかゆったり。そのうえ、立派なアトリエとワークスペース、夫婦ふたりがのびのび一緒に使えるキッチンまで備えた注文住宅を紹介します。住まい手は、陶芸家の妻と会社員の夫。2人が望んだのは、工房とワークスペースのあるシンプルで使いやすい家でした。写真は、玄関から見た工房とキッチンの様子。工房と居住スペースは引き戸で仕切れます。壁には小物を飾れるニッチも。白く塗装された壁には、玄関回りで使う掃除道具などを壁掛け収納しています。

玄関から見た工房とキッチン
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目次:

陶芸工房のあるコンパクトなアトリエハウス廊下がキッチン。つくるところ、食べるところ、くつろぐところがある必要なものを必要なだけ。シンプルな中にムダなく収めた家使いたいものがすぐ手の届く場所にあるからストレスフリー2人で同時に使うI型キッチンは、中庭の緑も借景も楽しめる階段下はワークスペース。傾斜のある高さを上手に活用玄関土間は自転車を2台置いても余裕の広さを確保洗う→干す→たたむ→しまう、が直線状で完結する洗濯動線収納スペースにコンセントを引き込んで便利さをアップ目的を分けて使える、2つの大型収納くつろいだり、作品を乾燥させたり。小さくても多目的に使える中庭間取図

陶芸工房のあるコンパクトなアトリエハウス

Hさんの家 愛知県 家族構成/夫34歳、妻30歳
設計/悠らり建築事務所

この家のこだわりポイント

  1. 陶芸工房を併設した、ほどよくつながるアトリエハウス
  2. ふたりで同時に作業できる借景のよさも自慢のキッチンスペース
  3. 使わない場所は皆無。階段下を夫のワークスペースに
  4. 2階は洗濯動線と収納動線がコンパクトに集約
Hさんの家の外観

間口が狭く、奥行きのある敷地に建てられたHさんの家。焼杉の壁が個性的な印象をもたらします。

妻の作品を飾るフィックス窓

玄関隣は妻の工房で、窓には作品を飾るギャラリースペースも。

廊下がキッチン。つくるところ、食べるところ、くつろぐところがある

リビングからダイニング、キッチン、中庭を見たところ

リビングからダイニング、キッチン、中庭を見たところ。ひとつにつながった空間ですが、コーナーごとにキャラクターが違うので、空間はそこはかとなく分節されています。中庭は工房ともつながり、回遊できるプラン。

中庭に面して大きな窓が設けられているキッチン

キッチンが配置されているのは廊下にあたるスペース。中庭に面して大きな窓が設けられています。

お気に入りの皿を置くために造作した棚

窓にはお気に入りの食器を置くための棚も造作されていて、ちょっとした陶磁器のギャラリーのような雰囲気。

必要なものを必要なだけ。シンプルな中にムダなく収めた家

「私たちはものを多く持つタイプじゃないんです。必要なものがあればいいかな、と。人から見ればシンプルかもしれませんが、これで十分」と妻が語れば、うんうんとうなずく夫。

Hさん夫妻が暮らすのは、南北に長い敷地に建つこぢんまりとした家。

「住む場所の広さは必要なかったけど、工房だけは外せませんでした」(妻)と陶芸家の妻。電気窯の置ける工房と、ムダのない家事動線を希望していました。設計の依頼先は、悠らり建築事務所の安藤亨英さんと安藤節子さん。温かみのある作風が、夫妻の好みにピッタリだったそう。

この細長い家の1階は陶芸工房とLDK、それを囲む中庭。2階には寝室と収納スペース、洗面浴室とバルコニーを配置。

「キッチンは2人で同時に作業できる長さなので、ゆったりと使えますね。調理中に中庭やお隣の庭が眺められるのも気に入っています」(妻)。キッチンの向かいは夫のワークスペース。「在宅ワークで家にいることが多いのですが、キッチンにすぐ手が届くのは、かなり便利ですよ」(夫)。

また2階は洗面、寝室、バルコニー、ウォークインクローゼットが直線的に配置されているのも使い勝手がいいそうです。使いやすさと効率のよさ、仕上げにもこまやかな配慮がされた設計。

この家では夫婦2人のシンプルで穏やかな時間が、ゆったりと流れているようでした。

使いたいものがすぐ手の届く場所にあるからストレスフリー

日常的に使う調理器具などをハンギング収納

必要なものをすぐ手が届く場所や近くに収めているのが、この家の大きな特徴です。ガスコンロの上には日常的に使う調理器具などをハンギング収納。

普段使わないものは上部に収納

普段使わないものは上部に収納。取り出したいときには背の高い夫が取り出してくれます。

シンク下の狭いスペースにもコンセント

シンク下の狭いスペースにもコンセントを回しているから、コードの付いた調理器具を使用するときも便利。

2人で同時に使うI型キッチンは、中庭の緑も借景も楽しめる

壁付けのワイドなI型キッチン

壁付けのI型キッチンは幅が3m80㎝もあるワイドなキッチン。調理家電もキッチン内に収められています。「2人で一緒に料理することも多いので、これくらい広いと作業もはかどりますね。作業中に窓の外にふと目をやると、中庭の植物やお隣のお庭が見えて、とても気持ちがいいんです」(妻)。

階段下はワークスペース。傾斜のある高さを上手に活用

階段下にある夫のワークスペース

キッチン向かいの階段下は夫のワークスペース。階段の傾斜に合わせて本棚からプリンターまで収まっています。「落ち着くし、振り向けばキッチンというのはかなりラク」(夫)。

玄関土間は自転車を2台置いても余裕の広さを確保

玄関土間に自転車を2台置いても余裕のスペース

広い土間には自転車を2台置いても、通行の妨げになりません。右手は靴や外回りのものを入れておく収納スペース。収納の奥行きが自転車のハンドル幅とほぼ同じなので、不整形なものが同居していてもきれいに収まっているように見えます。

玄関ドア脇の壁面に設置したポスト

玄関ドア脇は壁面に設けられたポスト。外まで郵便物を取りに出なくていいのも高ポイント。

洗う→干す→たたむ→しまう、が直線状で完結する洗濯動線

シンプルな洗濯動線

洗濯機のある洗面室からバルコニーまでは一直線につながっています。乾いた洗濯物は寝室のベッドでたたみ、洗面室向かいのクローゼットにしまうことで洗濯動線がシンプルに完結。

バルコニー

バルコニーは洗濯物を干すだけでなく、くつろぎの場所にも。「お風呂上がりにベンチで涼んだりしますね。いい風が吹いて気持ちいい」(妻)。

寝室には天井埋め込み式の室内物干しを設置。

寝室には天井埋め込み式の室内物干しを設置。「普段は天井に埋め込んであるから違和感はありません。雨の日に登場しますが、シーツなどの大物も乾きやすいですよ」(妻)。

スケルトンの直線階段

スケルトンの直線階段。手持ちのアンティーク食器棚がピタリと収まっています。ハイサイドライトから自然光を取り込んだ明るい空間。

収納スペースにコンセントを引き込んで便利さをアップ

2階の洗面室にある小さな収納庫

2階の洗面室にある小さな収納庫。ここには洗濯用品や掃除用品が整然と収まっています。

畳んだピンチハンガーがピッタリ収まる奥行きに

奥行きは畳んだピンチハンガーがピッタリ収まるサイズ。

また掃除機の充電器をつないでおくためのコンセントも回してあります。「いちいち充電器を出して室内のコンセントにつなげなくていいからすごく便利」(妻)。

目的を分けて使える、2つの大型収納

大容量のウォークインクローゼットと納戸

大容量のウォークインクローゼットと納戸。畳んだ洗濯物はここへ戻ります。引き戸で仕切られた納戸には、キャンプ用品や季節ごとに使用するものなどを収納。

くつろいだり、作品を乾燥させたり。小さくても多目的に使える中庭

焼杉の外壁に木製サッシ、妻の作品を飾るフィックス窓

焼杉の外壁に木製サッシ、妻の作品を飾るフィックス窓が組み合わされた工房部分の外観。基礎の際にも植栽を植えて、独特の雰囲気を持つ空間になりました。

玄関へのアプローチ

玄関へのアプローチは小さなスペースながらも、実のなる植物、季節を感じさせる植物などを植えて趣のある小さな庭に仕立ています。

電気窯と中庭に続く引き戸

作陶中の妻の背後に見えるのは電気窯と中庭に続く引き戸。ここには水道も回してあります。

いろいろな使い方が楽しめる中庭

いろいろな使い方が楽しめる中庭は工房側からは窯入れ前の作品を乾かす場所として。またダイニング側には小さな濡れ縁がつけられているので、仕事の合間に腰を下ろして植物を眺めたり、コーヒーを飲んだりできるくつろぎの空間に。

3種類の木製建具が組み合わされた窓

工房の道路側に面してつけられた窓が独特の世界観を醸し出すのは、形の違う表情豊かな3種類の木製建具が組み合わされているからです。

窓の下と右の壁には小ぶりな作品を飾れる棚を造作

窓の下と右の壁には小ぶりな作品を飾れる棚を造作。ここも小さなギャラリースペース。左右には陶芸道具を収めた大きな棚がありますが、天井が高いので圧迫感がありません。

間取図

Hさん邸間取図

DATA

敷地面積/111.54㎡(33.80坪)
延床面積/84.08㎡(25.48坪)
1階/52.78㎡(15.99坪)
2階/31.30㎡(9.48坪)
用途地域/第1種低層住居専用地域
建ぺい率/60%
容 積 率/100%
構造/木造軸組工法
竣工/2020年6月

素材

[外部仕上げ]
屋根/ガルバリウム鋼板
外壁/ガルバリウム鋼板、焼き杉
[内部仕上げ]
1階 床/ナラ
壁/漆喰、塗装
天井/塗装
2階 床/ナラ
壁・天井/塗装

設備

厨房機器/オリジナル、グローエ、リンナイ
衛生機器/TOTO
窓・サッシ/オリジナル(木製サッシ)、YKK AP

施工/菊原
造園/糟谷庭園デザイン室
設計/悠らり建築事務所

撮影/桑田瑞穂 ※情報は「住まいの設計2021年8月号」取材時のものです