今人気の平屋のお宅を紹介します。延べ床面積は、77.5㎡とコンパクト。仕切りがほとんどないのが特徴です。たとえば、この家の庭に面した心地よいLDKには、居室を仕切る建具がありません。こちらの家は、設計者と二人三脚で建てた注文住宅。建主支給とDIYでコストダウンをはかっています。仕切りをなくしたのは、コストダウンが理由でもありますが、仲よく暮らす親子4人にとって、扉はそもそも必要なかったのかもしれません。今回は、家の様子とともに、さまざまなコストダウンの工夫についても解説していきます。ぜひ、家を建てる際の参考に。上の写真は、建物南面のLDK。奥には、子ども部屋と一体になった大空間見えます。天井と床の仕上げが連続しているうえに、扉がないのがその秘密。家族の仲がいいから実現できたプランです。
すべての画像を見る(全18枚)家族の仲がいいから、部屋も間仕切りもいらない
Aさんの家 大分県 家族構成/夫40代 妻30代 長女小学生 次女小学生
設計/蒲牟田健作(COGITE)
本体工事費 1600万円
この家のこだわりポイント
- 使わなくなる上階は不要の平屋建て
- ローン支払額から逆算した総建築費
- 猫が逃げ出さないように敷地を囲う
- 壊れないものを使ってメンテコストを下げる
建物の南側にあるから明るく日当たりのいいダイニングキッチン。
飼い猫が脱走しないように壁で囲った庭は家族の憩いの場。
機能を兼ねることで、広さとコストダウンを両立
「予算の上限をはっきり決めていたので、こんな広くて豊かな家ができ上がるとは思っていませんでした」
そう語る、Aさん一家。床面積77㎡は夫婦と子ども2人の住まいとしては決して広いわけではありませんが、建物の南面を占めるLDKは奥行きもあって広々とした印象。しかし、よくよく見るとリビングの奥には子ども用ベッドが左右に振り分けて置かれています。
「間仕切りがないから、どこまでがLDKでどこからが子ども部屋か、ぱっと見には分からない。広々と暮らす秘密はこれです」(夫)
設計者の蒲牟田健作さんいわく、「機能を兼ねることで広さとコストダウンを両立した」のだそう。確かにトイレや浴室、クロゼットを除けばAさんの住まいはどこもLDKといえそうです。ちなみに寝室にも扉はありません。
「娘が幼いうちは家族揃って楽しく暮らすために間仕切りは不要ですし、必要になったら家具で仕切ろうかな、と。いずれ娘たちは巣立っていくので、そのあと夫婦2人で暮らすことを考えると、十分な広さがあります」(妻)
ずっと住む家だから、珪藻土塗りの壁や木の床など、こだわるところは妥協しないのがAさんの考え方。「最初に妥協して安価なものをつくると、結局あとでメンテナンスコストがかかるんですよ」という夫の言葉は、住まいのコストダウンを考える人には大きなヒントになるのではないでしょうか。
この家のコストダウンのポイント
POINT 1 効率的な長方形の平面と建主が塗った壁(※POINTの数字は下の間取り図と連動)
シンプルな長方形の平屋と素材の共通化でコスト効率を実現。また、珪藻土塗りの壁面はすべてAさん夫妻が左官仕事をして、職人の手間代を省いています。
POINT 2 廊下のない「兼ねる」プラン
間仕切りと建具がないため、LDK空間と子ども部屋、寝室などの境界をあいまいにすることで、面積以上の広がりが感じられます。独立した「廊下」はAさん宅にはありません。
POINT 3 使いたい機器は建主が支給
コストダウンの一環でもありますが、照明機器やコンセント、スイッチ類などは夫がインターネットで気に入った製品を手配しました。約100万円分の機器は建主手配です。
POINT 4 室内の建具はトイレとクローゼットだけ
小学生の長女、次女のスペースはLDKの奥。北側の壁につくりつけの机も設置されていますが、間仕切りや扉はなし。その隣はベッドが置かれた寝室でここも建具は省かれています。
POINT 5 天井を張らないことで圧迫感もなし
梁などの構造材が表しになった天井。構造材をおおう天井がないことで頭上の高さを稼ぐことができ、コストダウン以外に圧迫感を感じさせない効果も生んでいます。
POINT 6 床は構造合板張りで掃除も楽々
当初は床全面を左のようなモルタル塗りにする案もありましたが、温かさを感じる木に変更。「溝がない分、普通のフローリング材よりも掃除が簡単なんですよ」(妻)。
この家に暮らしてから、必要なものだけを置くようになりました
飼い猫が逃げないように壁を立てたいというAさん一家の要望で外部から閉じた庭には、手入れが必要になる植物は植えず、もっぱら家族の遊びの場として使われています。
建物南面の土間は一部が玄関となっています。構造合板のついたてのような箱は、ゲタ箱としての機能はもちろん、玄関からダイレクトに中が見えないようにする役割も担っています。「ニッチのようなスイッチボックススペースは鍵なども置けて便利です」(夫)。
キッチンを造作したのは、必要な機能を吟味したかったから、と妻は言います。「コンロに炊飯機能があるので、炊飯器は処分しました。食器もそのときに必要なものだけを棚に置いています」(妻)。コンロはリンナイの上級グレードをチョイス。コストをかけるところ、かけないところのメリハリが豊かな暮らしを実現しています。
モルタル敷きの土間空間が室内と室外をあいまいにつなぐAさんの住まい。土間の突き当たりは玄関ですが、段差はなく土足の領域も緩やかになっているところが、なにごとも大らかなこの住まいの性格を物語っています。
玄関とは反対側の突き当たりにあるのが洗面、洗濯スペース、浴室の水回り。キッチンを中心に洗濯機とウォークインクローゼットがあるので、家事動線も効率的です。
(写真左)冷蔵庫の横に設けられた収納兼ミニ書斎スペース。小さなデスクが造りつけられていて、家族共用のパソコンスペースになっています。
(写真右)トイレの手前にある収納スペース。本棚や猫のトイレなどが収まります。「唯一の心残りは収納スペースの少なさかな。収まらないものは処分するようにしていますが、収納場所はもう少し必要だったかも」(夫)。
(写真左)家族全員の衣料品などをしまうウォークインクローゼット。
(写真右)子ども部屋のつくりつけ机の下は市販のストッカーを用いた収納スペースになっています。机の上の棚は夫が角材と板を置いてしつらえた簡易棚。
幹線道路の角地にあるAさんの住まい。敷地を囲った壁は前面道路を通る車の騒音を遮る役割もあります。
間取図
DATA
敷地面積/205.49㎡(62.27坪)
延床面積/77.50㎡(23.48坪)
用途地域/第1種中高層住居専用地域
建ぺい率/60%
容積率/200%
構造/木造軸組工法
竣工/2018年4月
本体工事費計/1600万円
3.3㎡単価/68.1万円
素材
[外部仕上げ]
屋根/ガルバリウム鋼板
外壁/窯業系サイディング
[内部仕上げ]
床/構造用合板
壁/珪藻土
天井/躯体表し
設備
厨房機器/オリジナル
衛生機器/TOTO
窓・サッシ/LIXIL
設計/蒲牟田健作(COGITE)
1975年千葉県生まれ。’96年国立都城工業高等専門学校卒業後、ごとう計画・設計勤務。’97年メイ建築研究所宮崎勤務。2001年COGITE設立。12年より都城工業高等専門学校非常勤講師
撮影/中村風詩人 ※情報は「住まいの設計2021年6月号」取材時のものです