既存のモルタル壁をそのまま生かし、夫の友人である日本画家の作品を飾っている壁面。こちらは夫婦ふたり暮らしの加島邸のダイニングです。建築士の兵藤善紀さんに依頼してリノベーションした住まいは、木やモルタルの素材感が生かされた洗練空間。既存の設備をうまく生かしながらコストコントロールにも成功しました。2匹の愛犬と暮らす夫妻の住まいを見せていただきましょう。
すべての画像を見る(全16枚)既存の壁を生かしたモルタル壁が、雰囲気たっぷりのLDK
既存のビニールクロスをはがしたら出てきたモルタル壁を、塗装せずにそのまま生かしたLDK。壁際のカウンターは、用途に応じて奥行を変えて造作したものです。出入り口付近にはあえて低めの天井を設置。間接照明も仕込み、くつろぎスペースの天井の高さや空間の広がりがより一層感じられます。
テレビ台として使用しているリビングの造作カウンターは奥行40㎝、右手の書斎コーナーのデスクは奥行50㎝に設定されています。きめ細かいサイズ設定は、建築士の設計による造作ならでは。
LDKとオープンにつながりながらも、天井が低いので個室のようなこもり感もある、「いいとこどり」の書斎。LDKから続くカウンターデスクは、パソコンやプリンターを置いても余裕の広さ。壁面には本をおさめておけるオープン棚も設置しました。奥の引き戸は寝室につながり、リノベで間取りに回遊性も生まれました。
2匹の愛犬とくつろぐ加島さん夫妻。既存の網戸が壊れていたので、木製網戸を取りつけました。ブラインドも木製をチョイス。ナニック社のものです。
既存の床に上貼りしたパーケットフローリング。体育館などに採用されている素材で、もともと入っていた床暖房の熱を伝えやすいようにと選んだものですが、濃い色に塗装したことで、どこかレトロで落ち着いた雰囲気に。
塗装は将来のメンテナンスにも対応できるようにDIYでおこなったそう。建築士の兵藤さんの事務所スタッフも参加し、2日がかりで仕上げました。
加島さん夫妻が購入したのは2005年竣工の比較的築浅のマンション。前オーナーがきれいに使っていたこともあり、使える設備はそのまま生かしてリノベしました。
キッチンもその代表例で、システムキッチンと壁のタイルはそのまま活用。床はタイルに貼り替えて、壁と天井は塗装。手前に家電を置けるオープン棚を造作しました。
【この住まいのデータ】
▼家族構成
夫37歳 妻32歳
▼リノベを選んだ理由
「住みたい街」を求めて、それまで暮らしていた東京を離れ、横浜で住まい探しを進めた。購入した中古マンションは築浅物件だったが、内装が好みではなかったので、使える設備は生かしてリノベすることにした。
▼住宅の面積やコスト
専有面積/66.98㎡ 工事費/約600万円(税・設計料込み)
建具で囲まれた落ち着ける寝室は、開放感もある空間に
玄関を入るとすぐ右手に、ガラス戸と障子で囲まれた寝室があります。開放的で落ち着いた和の雰囲気が漂います。
寝室と玄関土間との間仕切りは開放できる障子を採用。玄関土間を設けたぶん、以前より寝室は狭くなりましたが、ガラス戸や障子のおかげで開放的な空間に生まれ変わりました。「朝起きたときも明るさが感じられて気持ちがいいです」と妻。
まるで料亭を訪れたような雰囲気の玄関土間。リノベ前は玄関を入ると正面が壁、という間取りだったため、壁を撤去して土間部分を延長しました。右手の窓は共用廊下に面しているため、土間玄関をはさむことで寝室のプライバシー確保が可能に。
愛犬用のスペースやウォークインクローゼットも実現
仲よく室内をお散歩中の愛犬たち。ガラス戸のおかげで、狭くて暗いことが多いマンションの廊下が明るい空間になりました。左側に並ぶ個室やウォークインクローゼットの扉は、ラワン合板の引き戸に変更。
寝室の向かい側のもうひとつの個室は内装をリフレッシュ。愛犬たちのケージやグッズ類の置き場所として活用しています。
ペット部屋のすぐ隣には、3畳大のウォークインクローゼットを新設。スイッチ操作不要の人感センサーの照明が便利だとか。
造作家具&建具に用いた木材や壁のモルタルなど、素材感が生きた加島邸。壁と天井はマットな質感のベージュを選ぶなど、色づかいも上品で落ち着ける空間づくりに貢献しています。開放的な間取りとも相まって、人もペットも快適に暮らせる住まいが完成しました。
間取り(リノベーション前後)
リノベーション前
リノベーション後
設計/兵藤善紀建築設計事務所
住宅の新築、リノベーション、店舗・オフィスデザインを手掛け、古民家改修も得意とする一級建築士事務所。代表の兵藤さんは1993年日本大学理工学部航空宇宙工学科卒業後、設計事務所勤務を経て2003年に独立。事務所は兵藤さんのパートナーが経営する雑貨の店「くらしの道具」とシェアしている。
撮影/山田耕司 ※情報は「リライフプラスvol.23」取材時のものです