交通機関へのアクセスが良くて、通勤や通学にも便利な都市部での家づくりを望む方も多いでしょう。ただし、都市部の駅近は土地の値段も高くなりがち。買えたとしても、それほど大きな土地はなかなか手に入りません。土地も家もコンパクトな都市型住宅で、快適な暮らしを確保するにはどうすればいいのでしょうか?住宅を専門としている一級建築士の入部亜佐子さんに、家づくりでためになる設計のポイントを聞きました。
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① 廊下などの通路スペースを極力排除する② 光の確保も大切な要素。2階リビングの心地よさ③ 床面積に算入されない小屋裏スペースを使いやすく配置④ ドアの位置を変えることで快適さがアップ⑤ 場合によってはスキップフロアも考慮① 廊下などの通路スペースを極力排除する
都市型住宅の場合、建ぺい率や容積率など面積が制限されることも多いです。限られた面積の中に居住空間をいかに確保するのかが大切なポイントに。その際、なるべく通路は少なくプランニングするのがコツです。
② 光の確保も大切な要素。2階リビングの心地よさ
昼間の時間、カーテンを開けて過ごせるリビングはとても気持ちのいいものです。でも、都市型住宅の場合、往来の多い道路に面していたり、隣との塀が迫っていたりすると、広めのLDKでも窓が開けられず圧迫感を感じることも多いもの。
そこで、通行する人や車の目線を避けて、リビングを2階にするプランがおすすめ。トップライトと呼ばれる天窓や、バルコニーに面した目線が抜ける大きな窓をつけられる2階のほうが、同じ床面積でも開放感があって広く感じられます。周りの目線を気にせずリラックスできるのもポイント。これは狭小地だけではなく、南側に隣のおうちが迫っている場合などにも有効です。
さらに写真の例のように、リビングに続くベランダに植栽のグリーンを確保できれば、カフェのような空間も実現できます。
2階リビングが難しい場合は、掃き出し窓の外にリビングの床と同じ高さのウッドデッキを、敷地ぎりぎりまで延ばして設置すると、空間に広がりが感じられて想像以上の開放感を味わえます。
③ 床面積に算入されない小屋裏スペースを使いやすく配置
横に大きくできないなら縦に大きく、ということで、3階建てになるケースも多い狭小住宅。ですが、3階建てにすると構造計算が必要になったり斜線制限に引っかかったり、コスト的にも法的にも厳しい条件になることが多くなります。
そんなときにおすすめしたいのが、小屋裏の空間を使うこと。クロゼットや収納として活用すれば、LDKや寝室がすっきりします。
天井の高さが1.4mを超えなければ床面積にも算入されないので、他のフロアで容積率(敷地に建てられる建物の床面積の割合)いっぱいの床面積になっていたとしても、プラスアルファの空間としてつくれます。
④ ドアの位置を変えることで快適さがアップ
限られた面積の中で居室の広さを確保したいなら、廊下を省く方法もあります。たとえば洗面・浴室などの水回りに、リビングから直接出入りできるプランです。このときに問題になるのが、水回りの見え方と使い方です。
同じレイアウトのふたつの間取り。ドアの位置で使い勝手が変わります。
こちらのプランでは、リビングに面した2枚のドアからトイレと洗面脱衣室に入ります。リビングとトイレが近くて目線が気になるうえ、もし誰かがお風呂に入っていたら、歯も磨きに行きづらいです。
それをドアの位置だけこのように変えてみます。トイレの目線も歯磨き問題も解決。脱衣室は少し狭くなりますが、リビングの居心地は断然アップします。
⑤ 場合によってはスキップフロアも考慮
床面の一部に段差をつけて高さを変えた構成を、スキップフロアといいます。1階にインナーガレージをつくったり、敷地と道路に高低差がある場合などは、スキップフロアをとり入れるのもひとつの手です。
このように、各部屋が緩やかにつながり、目線が変わってとても遊び心のある家になります。段差はありますが目線がつながっているので、思いのほか広く感じるのがメリットです。
ただし、冷暖房を計画的に考えることや、構造も複雑になるので、耐震性などをきちんと考慮した設計にすることが重要です。お掃除ロボットもその威力を発揮できないところも念頭においておきましょう。
都市に住むメリットを確保しながらも、デメリットとなる部分をプランで払拭できると、住み心地のいい家が手に入ります。法的なこともシビアに絡んでくるので、設計士さんにしっかり相談してみてください。
●教えてくれた人/入部亜佐子さん
一級建築士。大学の建築学科を卒業後、大手ゼネコン設計部に就職。結婚、子育て、海外暮らしを経験する中、個人設計事務所、大手設計事務所、工務店などに勤める。住宅設計を専門に活躍