「大正から昭和初期のものが好き。デザインが均一でなく、人間の味がにじみ出ている。材質も木が多く、職人の技も生かされるから」。こう話すのは大阪市内に暮らす光岡大介さん。光岡さん夫妻はこれまで一軒家を借りて暮らしていましたが、一念発起して、築約60年の家を購入してリノベーションすることに。40歳手前での決断でした。残せるものは大切にして、耐震・断熱など家の性能は向上させ、大好きな昭和風情あふれる住まいをつくりあげました。

昭和風情あふれる居間
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目次:

「ガレージをつくりたい」から、一軒家にこだわる大正から昭和初期の家具やグッズが馴染む空間古い建物のよさを生かしつつ機能性を高める

「ガレージをつくりたい」から、一軒家にこだわる

賃貸派だった大介さんが、家を持とうと思い立ったのは38歳のときでした。

そのきっかけになったのが「ガレージをつくりたい」という思い。愛車をゆっくりと愛で、メンテする空間が欲しかったので、マンションではなく一軒家にこだわったそうです。

築約60年の家の外観

もともと暮らしていた賃貸の一軒家と同じエリアでの家探しから数年後、立地・建物ともにベストな物件に出会いました。それは築約60年という店舗付き住宅。

1階のガレージ兼ギャラリー

手芸屋だったその店舗併用住宅は、1階は店→居間→キッチンが縦に並ぶ間取り。この店と居間部分を大介さん念願のガレージ兼ギャラリーに改修することに。

ガレージと入口右手の階段

大介さんの愛車はトヨタのパブリカ。ガレージの壁に貼られた昭和の映画ポスターやホーローの看板がより、レトロ感を感じさせます。

ガレージは、立派な梁を生かして耐震補強のみで仕上げたそうです。1階はガレージ兼ギャラリーのほか、作業場、そして浴室・洗面室で構成。生活空間は入口右手の階段で上がります。

2階の居間と台所

2階に上がると、そこには落ち着いた雰囲気のLDKが広がっています。

大正から昭和初期の家具やグッズが馴染む空間

大正から昭和初期の家具がある台所

レトロなものが好きな大介さんは、小学生時代のジュース瓶に始まり、大正から昭和初期の生活骨董を長年収集してきました。だから、これらの家具やグッズが馴染むような家になることもリノベーションの要望でした。

昭和レトロな生活骨董

設計を依頼したのは大阪市のリノベーション会社「美想空間」です。「マンションを扱う会社が多い中、一軒家リノベが得意なこちらに決めました」と妻のあゆみさん。

昭和の扇風機が現役

改修にあたって、状態がよい障子や建具、欄間などは既存のものを使用し、建物がもつ味わいを生かすことにしました。その結果、大介さんのコレクションは、あたかも前からそこにあったかのように空間にしっくり馴染んでいます。

壁に飾られた昭和の時計も現役

「設計者も同年代で好みを理解してくれて。ぼくが古いほうへ走りすぎると折衷案を出してもらえたのもよかったですね」(大介さん)。

古い建物のよさを生かしつつ機能性を高める

築60年ほどの建物ですから、やはり現代の生活に合わせて機能性を高める必要がありました。

そこで耐震性をあげるため構造の補強、屋上の防水といった機能面を向上させ、安全性を確保しました。

寝室

また、暮らしやすい家にするためにウォークインクロゼットをはじめとした収納を多くつくりました。もともとは昭和の家らしく、置き家具主体だったようです。

昭和の卓上電気スタンドも現役

最後に、これらのコレクションは「飾り」ではないことをお伝えしておきましょう。

「ものは絶対に実用主義」という大介さん。この家にあるものは今も使われていて、驚くことに昭和の家電まで現役だそうです。扇風機も時計も、卓上電気スタンドも。氷を入れて冷やす昭和初期の冷蔵庫は調味料入れとして活用しています。

骨董品として愛でるのではなく、使うことにこだわる。だから博物館的な雰囲気ではなく、しっかりと時間が動いているのです。

建物がもつ味わいを生かしたガラス窓

念願のマイホームを手にし、大介さんは今「都会で自給自足をしたい」と話します。屋上で家庭菜園したり、せっけんを手づくりしたり。やりたいことのイメージが広がるこの家での暮らしは、まだまだ変化していきそうです。

設計・写真提供/美想空間
取材/町田佳子
※情報は「住まいの設計2020年04月号」掲載時のものです。