「そろそろ持ち家を……」と考え始めたSさん夫妻は、慣れ親しんだ東京・杉並区の西荻窪から離れがたく、西荻エリアで物件を探すことに。なかなか理想の物件に出合えませんでしたが、最終的には地元の不動産屋からの情報で、広さ約60㎡、駅から徒歩5分以内という条件を満たす築15年のマンションを見つけて、即購入。夫の昔からの知り合いだった古谷野工務店の古谷野裕一さんに設計・施工を依頼し、廊下や壁をなるべくなくした、回遊性が高くくつろげる空間を実現させました。
すべての画像を見る(全11枚)収納を兼ねたベンチでリビングをより広々と
2方向から穏やかな光が入り、調理中も気分が上がりそうなLDK。「南側の壁(写真左側)は40㎜ふかしてPS(パイプスペース)を隠しました。2つの窓には彫りの深い額縁をつけ、一対のデザインとしてまとめています」と古谷野さん。
キッチンの面材はコブの表情が豊かなオークの厚突板張りで、妻が製作所まで足を運んでひと目ぼれした材を採用しました。ぬくもりたっぷりのキッチンカウンターは、寄りかかるのにもピッタリ。
リビングダイニングは壁と床の面積を意識的に広く確保しました。大きな面が空間を広々と感じさせる効果を狙うとともに、置き家具の増加にも備えての工夫です。また、サッシの上に出っ張っていた梁は、天井からサッシの額縁まで斜めに設置した壁の中に隠してすっきりさせています。
リビングダイニングの窓際は、もともとひざ上の高さに付けられていた開口部の額縁を室内側に伸ばして、造り付けのベンチに活用しました。「椅子をいくつも置かずにすみ、来客時などに重宝します」と妻。ベンチの下部は収納として活用しています。
玄関からLDKを見ると、廊下やドアがないため南側の開口まで視線が抜け、その開放感は格別。採光性も大幅に改善しました。
廊下をなくしたのびやかな玄関ホール
狭かった土間を拡大させる形で、書斎の床をモルタル仕様にしました。さらに、廊下をなくしてオープンにし、玄関ホール風の空間を創出。玄関を開けると西側の開口まで視線が抜け、帰宅時にとてもリラックスできるそう。
玄関ホールには、玄関から続く土間床の書斎があります。天井まで届く書棚兼デスクが、奥の寝室との間仕切りとして機能しています。
また、棚の素通し部分は風を運び、猫たちの通り道にもなっているそう。書棚の脇に引き込み戸を設けていますが、普段は開けて空間を広々と使っています。
書棚の裏はクロゼット仕様になっているので、起きてからの身支度がスムーズです。
家の中心にサニタリーをまとめて動線をコンパクトに
洗面室の向かいに浴室があり、脱衣室を兼ねるため、手前とLDK側に引き戸を設置。開けておけば寝室からLDKへの近道として活躍します。また、サニタリーを一か所に集め、寝室、LDKのどちらからも行き来がスムーズな位置に配置したことで、身支度の動線が短くなりました。
キッチンからトイレ、書斎、玄関方向は間仕切りなし。北側開口から穏やかな採光が得られ、開口の先の風景も目に入ります。
玄関近くにあってLDKから行きづらかったトイレは、どこからもアクセスしやすい場所に移動しました。「廊下や壁がなくなったので、リビングから北側を向くと窓の外のケヤキの木も眺められて、とてもくつろげるんですよ」と妻。
コンパクトな空間を選んだことで、物件価格だけでなく工事費も程よく抑えながら、回遊性の高い快適な空間を手に入れたSさん夫妻でした。
設計・施工/古谷野工務店
撮影/山田耕司
※情報は「リライフプラス vol.31」掲載時のものです。