長女が生まれたのをきっかけに、自然が豊かな場所で子育てをしたいと思うようになったというCさん夫妻。それまで住んでいた都心のマンションを手放し、鎌倉で土地探しを始めました。1年弱探し続けてようやく見つけた現在の土地。そこで念願の一軒家を完成させたのです。
すべての画像を見る(全15枚)道路側外観。角度をつけた2階の壁がよく分かります。斜めに振った角度は向かい側にある寺の参道に合わせたもの。斜めに飛び出した部分が1階の玄関とアプローチの庇を兼ねています。
景色を切り取るように大小さまざまな窓を配置
青々と茂った隣地の緑、春には参道沿いの桜が満開になるというお寺、遠くの美しい山並み、裏手に迫る切り立った岩肌の崖…。この家の2階に上がると、こうした周辺の豊かな自然がすべて目に飛び込んできます。
よく見ると、あちこちに開いた窓は、大きさも配置もばらばら。設計を担当したのはオンデザインパートナーズの秋元俊介さん。窓辺のベンチや食卓、奧の和室やキッチンで家族がどう過ごすか、家具やテレビや薪ストーブはどこにどう置くか…。入念に検討し、それぞれの場所から見たい景色を切り取るように「居場所をつくる窓」を設けたと語ります。
連窓のスチールサッシは屋根を支える構造体の役目も果たしており、窓の高さは薪ストーブやテレビの配置も考慮して決定。漆喰やレンガタイルの壁、ナラのフローリングといったやさしい表情の仕上げ材は、窓の外ののどかな景色としっくり馴染んでいます。
周辺環境を最大限生かした家族のリビング
2階は細長い一室空間のLDK。奧へ進むにつれて空間の幅が広がっており、左手に和室が続きます。コーナー窓に沿って設けたベンチは北鎌倉の山並みが望めるこの家の特等席。
各窓の大きさや配置は、設計スタッフが敷地に模型を置き、どこからどんな景色が見えるかを検討して決めました。
プレゼンでは手持ちの家具まで再現した精巧な模型と、イラストを多用した冊子を提示するのがオンデザイン流。「圧倒的に分かりやすい」「あれを見せられるともう断れない」とCさん夫妻は絶賛。
夫妻の念願だった薪ストーブを家族が集まる2階に設置。ストーブは「憩暖」の製品(建築家・中村好文のデザイン)。
ダイニング側の窓の外には切り立った岩肌の崖が迫り、崖下には道祖神を祀った祠(ほこら)や「やぐら」と呼ばれる鎌倉特有の洞穴(昔の横穴式墳墓の名残)もあります。
2階の一角に設けた小上がりの和室。和室からも北側の連窓越しに山並みが見える一方、南側の窓(写真正面)からも緑地の緑が遠望できます。
階段室との間に開口部を設けた半独立型キッチン。
1階は可変自在なフリースペース
パブリックなリビングや書斎を兼ねた1階。天井が高く、コンクリートの土間とフローリングが段差なしで続きます。
フローリング部分は将来2室に仕切ることを想定していますが、夫妻の希望で、子どもが小さいうちはワンルームのフリースペースに。窓の位置や高さも絶妙で、借景の緑や崖が見え、手持ちの家具もすっきり収まりました。
1階から見上げたオープンな階段室(写真上)と、階段から1階の見下ろし(写真下)。むき出しの柱や梁がアクセントになっています。
将来仕切って個室をつくる場合も、梁の上部をオープンにすることで広がりが出せる設計になっているそうです。
1階奥に設けた書斎。娘が大きくなるまでの期限つきだとか。
玄関脇のコーナー。隣家や崖が迫った1階は高窓が中心ですが、天井高が約3mと高いので、明るさも開放感も十分。
手持ちのPACIFIC FURNITURE SERVICEの家具が窓下にぴったり収まっています。
崖に面した1階のコーナーは、高基礎と一体化してつくられたコンクリートの棚がつくられました。半屋外のような趣があり、ここから見上げる崖も壮観。
玄関脇のホビースペース。左奥に寝室があります。
DIYで壁の漆喰塗りに挑戦
壁は1・2階ともに夫妻の希望で漆喰塗り。そのすべてを自分たちで塗ったというから驚きです。
「引き渡し時は下地材がむき出しで、これを全部塗るのかと思うとプレッシャーでした」
「引っ越しの準備で忙しい時期で、やはりプロの左官にお願いしたほうがよかったのではと正直不安でした」
そう苦笑する夫妻ですが、設計スタッフが総出で手伝ってくれたおかげで、下塗りと本塗り、計2日間で完成しました。
漆喰の壁は化学物質を出さない、調湿性があるといった機能面だけでなく、「意匠的な魅力が大きいですね。ランダムな手の跡が残り、光の回り方がやわらかくなります」と秋元さん。夜、照明をつけると、それがよく分かるそう。
また、塗り方を一度経験しておけば、子どもが汚してもまた自分で塗ればいいと思える気楽さも魅力のようです。
設計/オンデザインパートナーズ
撮影/ISSO
※情報は「住まいの設計2018.09月号」掲載時のものです。