岐阜県下呂市写真館を営むQさんは仕事の第一線を退き、この先の暮らしを考えて中古の平屋を購入。「ひとりでも暮らしやすく、たまに友人を呼んでお酒が飲めるような家」で暮らしたいとリノベーションを行いました。設計を依頼されたのは武川建築設計事務所の武川正秀さん。「幸いしっかりした躯体の家だったので、暮らしやすさを軸に遊びの要素をプラスしたプランを提案しました」といいます。
すべての画像を見る(全6枚)友人との時間を穏やかに過ごせるウッドデッキ
茶室のある北側は既存のまま残し、南側にあった和室2間を寝室とちょうどいいサイズ感のLDKにリノベ。
南に面した広縁は天井を残し半屋外空間としたことで、屋外、半屋外、屋外デッキがつながり、一体化しながらも特徴のある空間構成に。写真右の軒の張り出した部分は、以前の広縁。屋外デッキとつながることで十分な広さも確保できました。
室内から直接出られるデッキを設けるとき、高さは室内の床と揃えるケースが多いのですが、Q邸ではあえて腰掛けられる高さまで窓台を上げています。これは微妙に仕切られながら、つながるという仕掛け。
デッキには家と町が適度につながる高さの塀を設置し、RCの塀には屋外暖炉を組み込んで、火も楽しめる空間としました。揺らぐ炎を眺めながら友人とデッキでお酒を楽しむこともしばしばとか。
塀は閉鎖的にならず、ほどよく目隠しできる高さ。家の中にいてもほのかに町の気配が伝わり、夜には室内の明かりが町に漏れ出て、温かみある風景になるそうです。
地元の素材を生かして空間を包む
ダイニングと写真左側のキッチンは、ともにシンプルなつくり。今までは「台所に立ったこともない男」のQさんでしたが、ひとり暮らしとなった今では、簡単な料理を手づくりするまでになったそうです。
無塗装の杉板の床、シラス塗りの壁、コウゾ和紙の天井が織り成す空間は、静かな色みで目にやさしく感じます。
「この地域には古くから杉や檜などの良質な木材やコウゾといった、自然の素材があります。それを無理しない範囲で現代の建築にも取り入れたまでなんです」と武川さん。
穏やかでやさしい家には、自然な素材と炎の揺らぎがよく似合います。
家というのは不思議なもので、つくる人、住む人の気配が伝わるようです。このたたずまいを表すなら、やさしさと穏やかさが同居する家。
もとは茶道の師範の家だったそうですが、今回リノベしていない部分は今もお茶の稽古場として貸しているとか。こんなあたりにも暮らしの穏やかがにじみ出ています。
設計/武川建築設計事務所
画像提供/武川正秀
※情報は「住まいの設計2019年10月号」取材時のものです