連載漫画がきっかけで流転の田舎暮らしをスタートさせた、市橋俊介さん。その漫画のタイトルは『ぼっち村』(扶桑社刊)です。『ぼっち村』は、市橋さんがたったひとりで山梨の田舎に移住し、何もかも手探りで生活の基盤を築いていく様々な体験を描いています。そして『ぼっち』から『ふたり』へ。ここでは市橋さんの田舎暮らしの変遷と現在の様子をご紹介します。
田舎暮らしのスタートはこんな理由でした
自分の農業体験を週刊誌の連載漫画で綴るために、東京から山梨の田舎に移住した市橋俊介さん。
すべての画像を見る(全19枚)連載を持っていた週刊誌の編集部から田舎での自給自足生活を漫画にしたらと提案され、畑つきの築200年の古民家で田舎暮らしスタートさせました。
「2013年のことだったんですが連載自体が背水の陣だったので、もう言われるがまま、田舎に行って自給自足の生活を送ることになりました」(市橋さん)。
もともと田舎暮らしに憧れていた市橋さんは、編集部が思いつきのように言った提案に乗ったのでした。その漫画のタイトルは、たったひとりで始めた移住だったことから『ぼっち村』に。
「きっかけは確かに漫画の連載なんですが、昔から富士山の周りをドライブしたり、富士山が見える田舎に移住を考えたりと田舎暮らしに憧れていました。そうでなければ、こんなに続いてないですね」
現在の高原に居を構えるまで、3回の引っ越し!
最初の築200年を超す古民家は大家さんとのトラブルで1年後に移転。2015年のことでした。次いで移住した高原(野辺山)は、冬はマイナス20℃を下回る極寒の地。
その寒さにノックアウトされ、3回目は限界集落へ。そこでは3年間暮らしたそうです。
そして現在の住まいは、思い切って購入した自邸。2018年7月に引っ越してきました。
短いところでは半年、長いところでも3年。
なかなか定住できなかったのは、振り返れば「田舎特有の濃密な人間関係に対する心構えができていなかったのかな」と市橋さんは振り返ります。
「でも、人間関係がつらくてとか、深刻なトラブルが起きたわけじゃありませんよ。田舎だと僕が集落ではいちばんの若手ということになって、いろいろ期待されちゃうんですよ。消防団とか、村の催しとか……」人付き合いの間合いの取り方が都会とは違うことを学んだそうです。
自邸を購入&結婚し、理想的な生活を手に
高原での冬の極寒を味わった市橋さんは、4回目は標高1,000m以下で探しました。さらに、集落のど真ん中にないこと、借りる畑に歩いていけること、なるべく近くにスーパーやホームセンターがあることなどを条件にしたそうです。
毎日のことだから、ある程度の利便性は必要ですよね。具体的にどのように探したのでしょうか?
「田舎暮らしを始めた最初の頃は、農地バンクとか役場の就農支援制度を利用して、家付きの農地を探しましたが、今回は不動産屋の情報をあたって、条件に合う物件を探しました」。
結果見つけたのは、約500平米の敷地に2LDKS+離れ。家から徒歩1分の場所に農地も借りられました。窓からは南アルプスが一望できる絶景も!
それまで市橋さんが経験してきた田舎暮らしの舞台と比べるまでもなく、ここはまさに桃源郷のような住まいです。
さらに、今の住まいに引っ越してくる少し前に、市橋さんに「結婚」という大きな変化がありました。妻の職業はグラフィックデザイナーということですが、畑仕事も大好きと話します。
「土いじりとは無縁の生活だったんですが、いざやってみると、まいた種から芽が出たり、作物を収穫したり、それを人にあげると喜んでもらえたり、そういうことがとてもうれしかったんです」(妻)。
「ぼっち」を卒業した市橋さん。今後は「これまでは漫画と畑に追われて、せっかく田舎にいるのにやれなかったことがたくさんありましたから。余裕ができたら、ハイキングや乗馬なんかもしたいです」(市橋さん)。
他にも、無類の音楽好きである市橋さんは、CDなどを聴くためのオーディオ機器にも凝っているとか。
「隣家が遠いので、夜中でもボリュームを上げて音楽を聴けるのがいいですね」。仕事は、漫画家と農業の2足のわらじ。2階の書斎が仕事場で、PCとモニター、タブレット入力デバイスで漫画を描き上げています。
農業で現在力を入れているのはスパイスの栽培です。世界最強の辛さを持つという唐辛子がメイン。山梨の土に合っているのか、唐辛子は生き生きと緑の葉を茂らせています。
約2反の畑のうち、1反分の面積を占めるのが主力作物のハラペーニョ。世界一辛いといわれるキャロライナリーパーも栽培しています。
「これは僕らも食べられません。辛いを通り越して激痛が走ります(笑)」。
畑ではトウガラシ以外に、ごく穏当な野菜も家庭菜園程度に展開。枝豆や食用ほおづきも菜園の自慢です。
自家製の野菜で手際よく料理をしていきます。
最後に、移住希望者へアドバイスを一言。
「地方ほど人手不足なので、今は地方の隠れた優良企業に就職できるチャンスだと思います。ただ、都会で人間関係を築けない人は地方でも苦労するはず。むしろ地方の方が人間関係が濃密なので対人スキルは重要ですよ」。
田舎暮らしの楽しさも厳しさも、身をもって体験した市橋さん。田舎暮らしを考えている人には、『ぼっち村』も参考になりそうですね。
【取材協力】市橋俊介
撮影/難波雄史(扶桑社)
※情報は「住まいの設計2018年12月号」取材時のものです