「相続の問題で最近増えているのは、財産が少なくてもめるケースです」。そう教えてくれたのは、弁護士の比留田薫さん。近年、家庭裁判所にもち込まれた遺産分割で、相続財産か1000万円以下のケースは3割以上と、じつはいわゆる“普通の人”にとって、相続トラブルは意外にも身近な存在なのです。
また、「うちは財産がないから相続争いとは無関係」「いつか不仲は解決するだろう」と、年老いた父母がいるにもかかわらず家族間のトラブルを放置するのも問題。関係修復の努力をしないでおくことが、悲劇を生むことも…。今回はESSE編集部に届いた、”普通の人”である読者の体験談をご紹介します。
兄との金銭トラブルから孤立。家族と仲直りできないまま父と母が相次いで他界し…
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田尻真由子さん(仮名)神奈川県・47歳
●借金をもちかけられたことで、夫と義兄との関係が悪化し疎遠に。義父母との仲も、義兄の策略で関係を断つほどこじれてしまう。家族のなかで孤立したまま、義父母が相次いで他界。ともに相続人として義兄と突然向き合うことに。
ドアをあけたとたん、ツーンと鼻をつくすえたようなにおい。目に飛び込んできた荒れ果てた部屋を前に、私は立ちすくんでしまいました。その前日、義父は病院で息を引き取り、私たちは懐かしい夫の実家へと、義父の遺体を連れ帰ってきたのです。この家に最後に来たのは、かれこれ4年も前。というのも、とある事情で、私たち夫婦は、両親と距離をおかざるを得ない状況が続いていました。ここ数年、持病が悪化して病院通いになった義母と、体が弱くなった義父。そんな2人の通院の送り迎えをはじめ、日常生活の世話をやってきたと話すのは、義兄夫婦でした。義兄は両親から鍵を渡されており、「すっかり頼られちゃってさあ」と、ちょっと得意げ。「俺たち2人でずっと面倒みてきたんだ。いやあ大変だったよ」。
でもその言葉のうそは、この家の惨状を見ればすぐわかる。ほんの数日、家をあけただけなのに、汚れ放題のキッチンにも、カビで一面真っ黒のお風呂にも、ここしばらく使った痕跡がありませんでした。「介護保険サービスは使っていなかったんですか?」「いや、あれ認定とか面倒でしょ。うちのやつもほら、毎日仕事してるし」。それでどうやってお世話ができたというの?お義父さん、ここでいったいどんな生活をしていたのですか?元気だった義父母の姿がよみがえり、私は声を出さずに泣いていました。私たちと義父母は、かつてはうまくいっていたのです。むしろ、問題は義兄だった。