ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第33回は、親戚宅の柴犬と「犬」が対面したときのお話です。
天真爛漫な“彼”と、威嚇する“犬”。関係の行方は?
inubot回覧板第29回に登場した親戚のお家にやってきた柴犬は愛情にくるみくるまれて日々健やかに成長している。手のひらで包めてしまいそうなほどに小さかった身体は成犬とまではいかないが大きくなった。しかしまだ赤ちゃんのあどけなさも残っている。
すべての画像を見る(全12枚)犬と書き分けるにしても「親戚のお家にやってきた犬」という呼称は長いので、今回は“彼”と呼ぼう。まだ一歳にもなっていない“彼”と、六歳の犬は三度にわたって顔を合わせている。
そのときのリアクションや距離の取り方からそれぞれの個性が見えた。“彼”は犬めがけて無邪気にトトトと歩み寄ってこようとしてくれるが、犬は近寄らせまいとウゥウゥと地を這うような唸り声をあげる。
各々リードを引かれて距離は一定で保たれている。年長の犬の威嚇なんてなんでもないように興味津々といった振る舞いの“彼”を見て「怖ないねんなぁ」と感心していたら、親戚は「まだおそれるって感情を知らんのよ。」と言っていた。
たしかに犬は元から怖がりであったが、大きな犬にお尻を噛まれたことがあって、それから他者への警戒心が強まった。犬の威嚇は攻撃ではなく防衛である。
怖い出来事を経て怖がり方を知るなら、“彼”にはずっとずっと知らないままでいてほしいとも願う。
ふたりの距離を縮めるというか、犬の警戒心を解いていくのが難しい。だが以前は、犬は親戚のおじさんとおばさんも威嚇していたのだ。それがいつもおやつをくれて好意を伝えてくれるうちにだんだん威嚇しなくなった。いつの間に「大丈夫な人」になったのだ。
来客の気配に吠えていても二人の姿が見えたらワフゥッと息をついて、ゆらんと尻尾を振っている。だから関係性は好転するのだ、一朝一夕ではないだけで。
一定の距離さえ保っていたら同じ空間でも落ち着いていられる。私たちの賑やかな雰囲気もあるかもしれないが、これまでの犬からすると比較的“彼”には壁をつくっていないようだ。
うちにやってきてからの6年半ほかの動物と接触していなかった犬にとっては、年下の小さな“彼”はとても大きな存在だろう。
うちの敷地では縄張り意識もあるから外で合流してみようと河原で待ち合わせをしてみた。人間たちはあれこれと策を練るのだ。
先に犬と妹と到着して川のほとりを歩いていたら、遠くからおばさんと“彼”の姿が見えた。妹が「お~~い!」と手を振り上げて呼びかけると、「アラ!?」とキラキラとした黒目が私たちを捉えて、おばさんの腕を引っぱるようにグイグイと駆けてきてくれた。
外であってもやはり犬は自分の間合いに“彼”を入れられなかったが、おばさんは大丈夫なのでちゃっかりおやつをもらってなでてくれる手に目を細めていた。おやつをもらう犬を見て“彼”はおやつの入っているバッグに顔を突っ込むので、みんなそろって笑い声をあげた。
この日も最後までふたりが触れ合うことはなかったが、代わりに妹は“彼”をなでさせてもらって「おしりモフモフ!」と感激していた。“彼”は本当に天真爛漫だ。
また河原で待ち合わせてみよう。これからも時間はあるのだから犬のペースで親睦を深めていけたらいい。
帰宅してから妹は母に“彼”の愛らしさを伝えていて、犬は気にしないだろうが私が妙に焦って気づけば犬の頬を包みながら「犬も“彼”もふたりともいちばんかわええんよ」と言い聞かせていた。
愛犬家とは皆々うちの子がいちばんだと思っているのではなかろうか。そうであってほしい。東西南北どこだって愛犬家の棲むところには世界一かわええ犬がおる。
この連載が本
『inubot回覧板』(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
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