ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inubot。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第16回は、悩ましい犬のしつけについて。
老若男女等しく吠えて、威嚇するわが家の柴犬。番犬としてはありがたいけど…
柴犬はいろんな犬種のなかでも警戒心が強く、縄張り意識の高さをもって、うちを守ろうとするので番犬になってくれる、らしい。
生まれ持った気質に加えて育った環境から犬種ひとつで決めつけられない個々の性格があると思うが、わが家の犬について人に話すと「まぁ柴犬って…」と前述した犬種特有の話題に展開することがあり、きっとフォローしてくれているのだろう。
というのも犬はうちにやってくる人に対して老若男女等しく吠えて、威嚇します。
すべての画像を見る(全15枚)犬には吠えるスイッチというのがあって、ほとんど毎日のように顔を合わせる郵便配達のお兄さんには、坂道を登ってくるバイクのエンジン音が聞こえた時点で目をつり上げて、威嚇の準備を始めている。
車のエンジン音や歩き方の癖から識別しているらしく、私であればどのような時間帯に車で帰宅しても、新しくおろした靴であっても、吠えずに迎えてくれるし、たまに待ちくたびれたといった態度ですねた表情を覗かせる。
先日、親交の深い大切な女の子が東京から遠路はるばる来てくれたのだが、犬は彼女の姿を見つけた途端、激昂して吠え始めた。愛用のタオルケットを口にくわえてブルンブルンと振り回す姿はまるで連獅子。こんなとき問題があるのは犬ではなく人で、私の責任だ。
彼女は優しいため「吠える犬ちゃんを見て、瑞絵ちゃんやお母さん心苦しいでしょう」と逆に私を気遣ってくれて、また別の日にご近所のおばあさんがうちにやってきたときにも「ええ番犬やな、吠えてこそ犬やで」と目を細めて言ってくれたことがあった。私の至らなさを、周囲に優しさで補填させてしまっている。
ひとまず彼女には家に上がってもらって、私と犬は家の周りをぐるりと一周してから、「安心安心」なんて唱えながらブラッシングをしていたら犬のテンションもだんだん落ち着いてきて、同じ空間を共にすることができた。
犬と一つ屋根の下に一泊してもらうのは難しいかと近くの宿泊施設を予約していたのだが、母も犬の様子を見て「これならうちに泊まってもらえたかもねえ」なんて言っていた。初めこそ連獅子だが、翌日もうちでお昼ご飯に寄せ鍋を囲んでいるあいだ、警戒心を完全に解いていないようであったがそばでごろーんと寝転んでいて、よかった。安心安心。
最近は親戚の中学生がテスト期間にうちで連日勉強したりもしていたので、以前に比べて家族以外の人と一緒に過ごすことに、ずいぶん慣れたのではないだろうか。
吠えるスイッチがあれば吠えることをやめるスイッチもあるということにようやっと気づくことができて、いまだ模索中だが指先に触れつつあるように思う。
番犬としての一面も残しながら、この人たちは味方でここは安心できると認識できるように私がスイッチを押せるように、なにかしら習慣を定着化できたらいいのだ。
しかし相性が合う、合わないもあって、すっかり顔なじみであるが吠える人もいれば、慣れてなんとも吠えない人もいれば、最初からなでることを許す人もいて、なんなら日によるし、犬の心も繊細に流転している。
ちなみに犬が威嚇するのはなにも来訪者だけではない。
久しぶりに帰ってきた妹と一緒にテレビを見てくつろいでいるときに、突拍子もなく妹が私の腹を全力でくすぐってきた。
妹と過ごしていると、こういったことが高頻度で起こるので驚かない。ほかには意味なくドライヤーで風を浴びせてきたり、おいしいお菓子を口につっこんできたり、西の言葉でいえば“いらんことしい”(そんなところも魅力のうちだが)
妹のくすぐりに対してく、半ば冗談で「やめろーーー!!!」と叫んだときだ。それまで土間でそっと静かに眠っていた犬がダダダッ!と部屋へと駆け上がってきて、私と妹の間に割って入ってきたのだ!
なんだか背後に毛筆フォントで「ヒーロー見参」という文字が見えたほど凛々しかった。唸る犬に妹は「警備員がきたー!」と思わず引き下がったが、こんなふうにだれかが嫌がっている気配を察知したら、犬は仲裁に入ってくれる。たまに私からも妹にいらんちょっかいを出しては犬によって制止されることがある。いさかいが嫌やねんな、きみは。
「安穏な生活を営み続けたい」という祈りは犬と私の間で共有していることかもしれない。
犬にとっても住みよいうちづくり、これはいつまでも課題の一つだ。必要なしつけというか習慣というのは犬にとっても人にとっても生活を心地よく豊かにしてくれるもの。
しかし本当に、犬を育てるということは悩みがつきないものだなぁ。
この連載が本
『inubot回覧板』(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。